操り人形 (ページ25)

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逆転負けに期した月野木はそのままマウンド上で脱力し、両腕をついて項垂れる。
グラブはゆらゆらと転がり、額を腕に押し当てて立てないようだった。

「A、立てる？」

丸くなる背中にそっと触れる周東だが、小さく震えている事に気付いてしゃがんで覗き込む。
月野木の腕は涙で濡れており、マウンドの土も湿っていた。

しゃくりを上げ、悲しげに声を上げて泣く姿に集まる野手陣も胸が締め付けられる。

「頑張ったよ、えらいよ。」

月野木の二の腕を掴み、持ち上げて何とか立たせる。
自身の肩に腕を回し、支えながらダグアウトへと向かって歩く。
どんな時でも笑顔で士気を上げてくれていた月野木が、涙で顔をぐしゃぐしゃにし、カメラに映し出される事も気にせず子供のように泣く姿は目を背けたくなる程に可哀想だった。

ダグアウトに居た谷川原にタオルで頬を伝う大粒の涙を拭ってもらい、崩れ落ちる前に裏から顔を出した和田へと月野木を引き渡す。

「…格好良かったよ。」

一向に泣き止まない月野木を励まし、労い、称えながらロッカールームへ向かう。
まるで足跡のように涙が床へと落ちていき、点々と染みを作る。

ロッカールームでは中継ぎ投手や、練習に参加していた先発投手が一足先に着替えを済ませていて、入室した月野木を拍手で迎える。
暖かい空気に月野木の罪悪感は余計募るばかりだ。
しゃくりを上げ、泣きながら謝罪をして詫びを乞う月野木は見ていて痛々しい程に可哀想だった。

「…お前悪くないよ。」

甲斐野の言葉に顔を上げたと同時に、彼に強く強く抱き締められた。
寂しかったマウンド、人肌が恋しくて彼の体温に目を細めて胸元に額を押し付ける。

「お前の携帯ずっと鳴ってた。」

背中を優しく摩り、月野木のロッカーに置いてある荷物を指さした。
少しの間ぼうっとしていた月野木だが、甲斐野の腕の中からするりと抜け出て覚束無い足取りのまま荷物の元へと歩みを進める。
チャックを開けて無造作に中身を漁って取り出した携帯には、試合中に3件の電話と十数件のメールが着ており、指を動かし操作する。

メールを見つめ、画面を閉じる。
返信する気にもならずカバンの中に放ると振り返ってその場にいた投手に頭を下げた。自身の失点でクライマックスシリーズが終わったのだ。
自身の右手で拳を作り、強く強く握り締める。

声は上げないにしろ、また大きな瞳から大きな涙を流して居る月野木を見つめた板東は流れる涙を指の背中で拭った。