操り人形 (ページ22)

今日:24 hit、昨日:22 hit、合計:63,978 hit

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8回の裏、月野木の名前がアナウンスされるとドーム全体がどよめいた。
昨日投げた人間がまたもマウンドに立っているのだ。毎回ベンチ入りをしていた事は知っていたが、本当に出てくるとは誰も想像していなかった。

ダグアウトから駆け出した月野木へ、守備に着いていたチームメイトが大きな声で前向きな言葉をかける。
肩も休めていないはずなのに、照明でキラキラと輝いて見える月野木の笑顔は心から野球を楽しんでいるように思えた。

走者は二、三塁。それにノーアウトだ。
そんなピンチの状態を思わせないような明るい表情で甲斐のサインに首を縦に振る。
フルカウントまで追い込んだが、打者が粘る。
そして8球目で二遊間を抜ける適時打が飛び出した。

走者が1人還り、得点差も地道に狭まっていく。
それでも感情は表情に出さず、投げ続けるがアウトカウントをひとつ増やしてからも安打や適時打が放たれる。

快音が響く度、360度が盛り上がる。
大きな大きな歓声に殴られているような感覚に陥りながらも、右手をズボンで拭う。
白いズボンに、赤色の血が滲んだ。爪が割れたのだ。

月野木のズボンで拭われた血液が目に留まった今宮は、1人マウンド上に駆けて行く。

「指大丈夫？」

「大丈夫です、逆剥けです。」

「…打たれても大丈夫だから、のんびり行こう。まだ点差はあるから。」

咄嗟についた嘘に今宮は深く踏み込まず、月野木の腰に手を当てて話をする。
グラブで口元を隠す2人の視線は真っ直ぐお互いを向いており、真剣だ。
最後に尻をポンと叩いた今宮は守備位置へと戻る。

真っ直ぐと捕手の甲斐を向き直り、ストレートのサインに首を縦に振る。外角高めのストレートはボテボテのショートゴロ。

「健太！！」

先程の会話もあり、思わず先輩の名を呼び捨てして振り返る。
二塁走者は三塁アウト、けれど併殺が崩れて打者は一塁セーフとなり、また得点を許してしまった。

けれどツーアウトまでは追い込んだのだ。
今宮に申し訳なさそうに手を合わせて謝罪すると、彼は笑いながら大丈夫だと反応する。

背中を護る野手とアウト数を確認し、マウンド上のロジンに触れる。白粉が風に乗ってすぐに消え、打者が構えた事を確認して左足を上げた。
パキンッ！と音が鳴ったが、高く高く上がった打球は捕手の甲斐のキャッチャーミットに収まる。

8点差はいつの間にか3点差となっており、ダグアウトへ戻る月野木は悔しそうな表情を浮かべて手渡されたタオルに顔を埋めた。