操り人形 (ページ3)

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前日に山本と投げ合いをした為、月野木は練習に顔を出すだけかと思われた。
けれど、試合が始まればベンチ入りをしておりファンの頭を混乱させる。
何故先発の月野木が？何の変哲もない試合なのに何故？そんな疑問が浮かぶ。

「え、A出るん？」

ブルペンに居た月野木に甲斐野が思わず問いかけた。
目の前で肩を慣らす武田を眺めながら、2人は紙コップに注いだ水で喉を潤し会話をする。

「多分入れられてるだけです。」

隣に腰かけた甲斐野を一瞥し、また視線を武田に戻す。
ブルペン捕手のミットから鳴る破裂音は心地好く、聞いてるだけで胸が高鳴る。
汗に濡れる事も無い髪をかきあげると、キャップのツバを後頭部側に回して被った。

「無理な事は無理ってちゃんと言いなよ、すぐ首を縦に振らない事。」

甲斐野は空になった紙コップの口を潰したり、爪で叩いてみたりと手を忙しなく動かしながら、月野木の横顔を見つめて言う。

「…僕が出来る事はなんでもしたい。」

汗を拭う武田を真っ直ぐ見つめながら、落ち着いた声色で呟いた。
肩を慣らし終えた彼は一旦体を休める為2人の元へとやってくる。そんな彼に新品の紙コップに水を注いで手渡した。
「ありがと〜。」と月野木の頭をキャップの上から撫でた彼は、少ししてブルペンを後にする。

「お前さあ。」

先程までの破裂音が耳に残る。
一気に静かになってしまったブルペンで、甲斐野は月野木へもう一度声をかける。

「都合のいい様に使われてる事気付いてる？お前、なんでもうんうんって聞くから。」

「…でも、僕はホークスが好きだし、好きな球団には少し無茶をしても…貢献したいって思います。」

「それで肩壊しでもしたらどうすんねん。迷惑かける事になるやんか。」

至極真っ当な彼の言葉はチクチクと突き刺さる。
どれも納得せざるを得ず、彼の少し呆れた様な言葉を受け入れる。

「…でも、まあ。監督もほんまに入れてるだけやろうし、継投で試合に出る事も無さげやから、今のとこはいいけどさ。」

「……甲斐野さんて、普段おふざけ多い割にはちゃんとした所ではちゃんと真面目ですよね。」

月野木の頬をデコピンして人差し指の爪で軽く弾いた。
思わず肩を跳ねさせて反応した月野木だが、空の紙コップを折り畳みながら彼の方へ視線を向けると、柔らかくはにかんで言う。

「お前がお人好しだから言ってんのー。」

表情豊かな彼は頬を膨らませて口を尖らせる。
フグの様に膨らんだ彼の頬を人差し指で突き刺した。