操り人形 (ページ19)

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忘れられない大型連敗。月野木がマウンドに上がるとどうせ月野木は負け試合になるなんて屈辱的な声が上がる。
4年間上げに上げた期待の声を、5年目からどんどんヤジや誹謗中傷に変えていく。

月野木の実力は衰えてもいないし、2桁勝利はまだ続いている。
それでも批判の声が多いのは、あれだけ大々的にスカウトが来て挑戦するかもしれないと期待させておいて、2年連続蹴ったという行動が関係していた。

本人は何度も首を縦に振っていたはずなのに、上の人間に全てを拒否され、公には " 月野木本人が " と事実無根な報道をされて、最近ではテレビも見なくなっていた。

そんな批判が集中する中、ランナーを出しながらも8回までを無失点で切り抜けていた。
まだいける、最後まで投げられる。そう伝えたものの、投手交代となり悔しさの混じる中、ダグアウトで最終回を見つめていた。

1点ビハインド、追われている状況。
ここで逃げ切れば連敗も脱出、そんな希望を抱いて皆も身を乗り出して試合を見ていた。

けれど二塁打を打たれ、続いて本塁打を浴びてしまった。
最終回でのサヨナラ負けに、皆の表情も暗くなる。
普段は笑って投手を迎える月野木も、状況や皆の事を見ると笑う事も出来ず、被弾してしまった投手を迎えて背中をとん、と叩く事しか出来なかった。

ロッカールームで、椅子に腰かけて自身のロッカー前で突っ伏す。
大事な1戦、精神的な部分が余程堪えたのだろう。誰とも会話をしないまま、アンダーシャツ姿でただただ伏せている。
暖かいロッカールームは風邪をひく事は無いだろうが、柳田は自身の上着を肩に掛けた。

「お前頑張ったよ。」

そう言って、キャプテンらしい頼りになる手のひらで小さな頭を強く撫でる。
彼のその行動に顔を上げて

「…絶対次勝つんで、そん時は、ギーさんのホームラン期待しときますね。」

なんて笑顔を浮かべ、スイングする素振りを見せた。
多少は元気を取り戻した月野木に周囲も胸を撫で下ろし、柳田は

「打つけんちゃんと見とけよ。」

と少年のように口角を上げて笑う。
大型連敗でもチームの士気は下がらない。皆が皆を支えて、その日ダメだった部分を次の試合には徹底的に直して挑む。

「大津、今日ご飯行こ。」

唐突に声を掛けられた大津は驚きながらも親指を立て、月野木の誘いを了承した。