操り人形 (ページ17)

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WBCは大盛り上がり、順調に勝ち進んでいき決勝まで残る事が出来た。
寒かったはずなのにいつの間にか外気も少し心を暖めてくれるような、そんな気候になっていた。

リリーフとしての起用も数回、全てを無失点に抑えており月野木の調子も好調だった。

ただ、準決勝、決勝と登板の機会は無く、山本に山崎と同様

「マイアミ旅行〜。」

なんていじられる結果となっていた。

「マイアミ旅行同士仲良くしよ、あいつ白状やから。」

「ほんとね。こっちの気も知らないでよく言うよね、あいつね。」

「ほんとほんと。」

帰りの機内、山崎は窓際に座っていた月野木の手を取り、通路側に座る山本を一瞥してそんな事を言う。
彼のおふざけにもノる月野木に、山本はけらけらと笑いながら「事実やし。」なんて距離の近い2人を眺める。

山崎は月野木の耳元に口をよせ、何やら小さな声で会話をしては声を殺すようにくつくつと笑って笑顔を見せる。
まるで見せ付けられているような山崎の行動にムカッとしながら、山本は目を瞑る。

「…見て。皆寝てる。」

山崎の言葉に、機内を見渡して小さく笑う。

「皆疲れてたんだね。頑張ってたもん。」

窓際で、広がるだだっ広い空へ視線を向けて呟く月野木をじっと見つめる。
彼の瞳は雲しかない空が映っており、思わず手を伸ばして月野木のぷっくりとした涙袋に触れる。
窓ガラスに映る月野木の後頭部、ぱっちりとした瞳はどこか寂しげに山崎を映し出す。

そっと覆うように頬に触れ、何度か撫でる。

「…キスしていい？」

周囲には聞こえないような囁き声で問う。
山崎の端正な顔立ちをじっと見つめた月野木だが、両手の平を彼の口に押し当てて

「だめ。」

と口角を上げ、彼の願いを拒否する。
それすらも愛おしく、月野木から距離を取ると肘置きに肘を乗せ、頭を抱えてため息をひとつついた。

「そうやって気を引かせるんやぁ。へえ。上手いなあ。」

なんて言いながら笑う山崎は、腕を伸ばして月野木の頭をワッと撫でる。

「僕はそんなつもり無いんだけどなあ。」

山崎に撫でられている最中、目を細めて心地好さそうに話す。
不憫で、都合のいい男で、それでもって対応が上手い。他人の目にはか弱く映るのだろう。本人はただ真っ直ぐ生きているだけだというのに。

「てか、男に興味も無いし。」

「そんな思わせぶりで？」

「うは、どこが。そんな行動した事ないわ。」

そう言って笑う姿も山崎の気を惹かせる事には十分すぎるものだった。