操り人形 (ページ15)

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胸の前で腕を組んでいた山本を見ると、何故かぎゅうっと胸が締め付けられて愚痴を零した日の事を思い出す。

「ほら。寒いやろ、おいで。」

白い息を吐いてポケットに手を突っ込んでいた月野木へ腕を伸ばして呼び寄せる。
大人しく腕の中に収まったかと思えば、鎖骨付近に頬を寄せて人肌に安心している様に思えた。

「お前、大丈夫？精神状態。」

「うん。」

「嘘だあ。」

笑顔を浮かべて月野木の頭をそっと撫でる。太陽に照らされているというのに、熱を吸収せずひんやりしていた。
隣で相変わらず距離が近い2人を見つめていた山崎は、大きな手を伸ばして月野木の柔らかくて冷たい頬を撫でる。

「気を付けた方がええよ。」

優しい声とは裏腹に、彼の瞳は吸い込まれそうな程真っ黒だった。

「何を気を付けるの。」

「…由伸とか、俺以外にも、Aを狙ってる人間はおるんやから。」

「…狙う？」

山崎の言葉に首を傾げる。
山本は余計な事を言うなと言わんばかりの視線を山崎に向け、それに気付いた彼は誤魔化すように笑みを浮かべた。

「気にすんな気にすんな。」

山本はそう言うと、月野木の頭に手を置いてぎゅうっと抱き締める。
離さないと言うような彼の腕に少し驚きながらも黙ったまま受け入れている。そんな2人の様子を見つめた後、山崎は視線を外した。

キャンプは楽しくて、少しキツくて、寒くて。
沢山の人と仲良くなれて順調に進んでいた。時折ホークスのキャンプの様子も見に行っては栗原や柳田に絡まれ、元気な笑い声が響く。

「Aさんに聞きたいんですけど。」

「お？」

練習が終わり、辺りも暗くなってきた頃。
皆が引き上げていく中、背後から声がして振り返る。

「…なんか、楽しそうに見えないんですけど…大丈夫ですか？」

背の高い彼を見上げ、白い息を吐きながらその言葉を聞いて視線を落とす。
首を傾げながら、「んー。」と曖昧な、困った様な笑みを浮かべた。

「楽しいよ。皆で試合出来る機会なんてそう無いからさ。」

瞳を細め、目尻にシワを寄せながら彼に言う。
そんな愛らしいと思えるような笑みも、今は何か抱えているんじゃないかという不安の種となる。

「…今、楽しそうだって事は分かります。
あの、数年前からずっと、ホークスでのAさんが時々つらそうに見えて。」

彼はいつ自身の試合を見たのだろう、そんな事を考えながら浮かべていた笑顔も消えてしまう。
動揺した様な月野木を見て、悪い事をしたかと戸郷も不安を覚えた。