操り人形 (ページ12)

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夜、食事会も終わって自宅へと戻って来た。
ソファに座ってネットを見ていれば

" 月野木A、またもメジャー挑戦を拒否！！ "

と、大々的な見出しで拡散されていた。
あれだけのスカウトが視察に来ていたというのに、それを一蹴する行動に批判の声が今まで以上に上がっていた。
それと同時に、愚痴の内容はきっとこれなのだろうと予想もついた。

22時を回っていた。
流石に遅いか？と考えながらも、殆ど投稿がされていない月野木のSNSアカウントを開いてみた。
相変わらず殺風景なページに呆れながらも、数時間前に新しい投稿がされていた事に気が付いた。
シーズン中に撮ったであろうマウンド上での後ろ姿の写真が、

" 1年間ありがとうございました。来シーズンもまたよろしくお願いします。"

とキャプションに書かれた1文と共に投稿されていた。
コメント欄は案の定、メジャー挑戦を蹴った事への批判が集中しており、目に余るものとなっていた。

そんな彼の心理状況を想像すればゾッと背筋が凍り、すぐに電話を掛ける。
5回目のコールが鳴ったと思えば電話が繋がり、「A。」と月野木の名前を呼んだ。

「お前遅いってぇ。」

完全に寝起きの声だ。
睡眠を邪魔してしまったか、と思い謝罪をしながら心配する言葉を掛けた。

「んー。大丈夫。でも寂しかった、お前本当に遅いんだもん。」

「思ったより盛り上がってて。お前さ、SNSのコメントとか見んなよ。」

「えー、今言う？注意喚起遅すぎるよ。」

昼間に掛けてきた時よりも明るく振舞おうとしているのがよく分かる。
「んはは。」と時折笑うが、その声には普段の楽しげな感情は乗っていなかった。
向こうの小さな息を吐く声が聞こえ、沈黙が流れる。10秒もしなかった頃、月野木が口を開く。

「メジャー、まだダメだって。」

その言い方に、疑問を抱いた。
ネット記事の見出しとは少し違うんじゃないかと。自ら一蹴した様に書かれていたはずなのに、何故こんなにも他人事の様に語るのか。

「お前が断ったんじゃん。」

「…僕は行きたかったよ。去年も、本当は行きたかった。」

「……。」

「…甲斐野さんに言われるんだ。都合のいい様に使われてるぞって。」

淡々とした口調で話している月野木だが、山本にはその心理状態が強く汲み取れて、悲哀が伝染しそうになる。
ひんやりと冷たいリビングで、山本は相槌を打つ事しか出来なかった。