操り人形 (ページ11)

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2年連続メジャーへの挑戦を断られてしまい、月野木の精神面はすり減っていた。
公にはまた、月野木が拒絶したなんて嘘っぱちな記事が出るのだろう。呆然としたまま、冷たい風が服室外へ上着を着用する事無く足を踏み出した。
びゅうっと強い風が吹いたかと思えば、月野木の華奢や体はよろけて数歩動く。

「………絶対もう、来年無理やん。」

風に乗って消えていく小さな声は誰にも気付かれること無く、だだっ広い空気に紛れた。
去年上林に意気込んだ事をまたも何ひとつ成し遂げる事が出来ず、本当に投手としてやっていていいのかと自問自答するばかり。

駐車場に停めておいた自身の車に乗り込むと、そのまま自宅へ寄り道する事も無く真っ直ぐと向かった。

脱力した様に寝室に向かうとベッドへと飛び込んだ。
マットレスが強く反発し、木枠は大きな音を立てる。
その辺に放ったカバンの中で携帯が震える音がして、手を伸ばして取り出した。
" 山本由伸 " と見慣れた名前を見つめては、気が乗らないながらも無視する訳にもいかずに電話をとった。

「よっ、どう？元気？」

「……沢村賞…。」

「んふふ、俺めちゃくちゃタイミング悪い時に電話かけてるやん。」

電話の向こうの彼は機嫌がいいのか、楽しげな声でそう言った。
山本の背後からは賑やかな声が聞こえ、誰かとご飯に来ている事はすぐに分かった。そんな彼の事を羨ましく思いながら

「……ご飯、終わってからでいいからさ。1人になったらでいいからさ、愚痴に付き合ってほしい。」

と、縋るような振り絞った声色で伝える。
その声が耳に届いた時、周囲の音が一斉に消えたような錯覚が山本を襲った。
普段から少し抜けてて、楽しそうに笑ってて。そんな月野木が電話越しでも分かる寂しげな声で縋るものだから、山本は冷や汗をかく。

了承した後また連絡する事を伝えて電話を切る。

「Aさん？」

「そう。」

「メジャー行くんですかね、Aさん。」

「分かんねー、でも行きそうだよね。」

隣に座っていた宮城は疑問を抱きながら考える。
山本も首を傾げるが、本人はずっと挑戦はしてみたいと行っていた為に、メジャーに行くものだろうと思っていた。

賑やかな飲食店、山崎や山岡、杉本達も少し離れた席で盛り上がっている。
そんな彼らを見つめながら、頭の片隅には月野木の事が浮かんでいた。