後悔をした。長く賑やかな、教室前の廊下で。 (ページ10)

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#10. ページ10

諒希は自分でも分かっていた。かなり自分が面倒で、嫌な奴だということを。
誰かと付き合って。そしたら諦められる、なんて自分のエゴでしかない言葉。そんな事を吐いたと思うと自分が憎くなってしまう

──…アホや俺…

放課後の教室、誰もいないその室内に消える諒希の言葉。
スクールカバンを強く握り、帰ろうにも足が張り付いたかのように重くて動かない。

そんな時、カララッと軽い音を立てて教室の扉が開いた。
驚いて顔を上げ、扉の方を見ると剛がまだカバンを持って立っている。もう帰りの挨拶をしてかなりの時間が過ぎたのに、まだ帰ってないのかと諒希は目を丸くさせた。

ぱちくりと瞬きをする諒希に、口を一文字に閉じ、どこか不機嫌そうな剛が近付く。
隣の空いている席の椅子の背もたれに手をかけ、体重を預ける剛はじっと諒希の瞳を見つめて口を開いた。

──帰ろぉや

──…先帰ったんちゃうん

──ずっと下駄箱で待ってた

その言葉にまた諒希は目を丸くさせた。何故こんな時間まで、と。
なにか言おうとするが、聞きたいことが多すぎて逆に言葉が出てこなくなってしまった諒希。そんな諒希を見て剛は"──ふっ"と微笑み、ぷっくりと涙袋を作る。

──Aくんと帰りたかってん

スクールカバンを握っていた諒希の手をパッと取る剛。
骨張った細くて白い指が剛の手のひらに乗る。じっと諒希の目をみたまま、剛は"──ほら"と早く帰ろうと促すように軽く手を引いた。

──っあ、ちょお…

諒希はカバンを握ったまま剛に連れられるがまま教室を出て下駄箱まで向かう。
もう下駄箱には自分たちの靴以外は残っていない。2人きりなんだとそこで何となく感じた諒希。光一はやっぱり剛のように気にかけてくれないんだなと少しだけ寂しくも思ったりする。

──………光一の事考えてるやろ

靴を履き終えた剛が、少し冷たい声色でそう言った。
ハッと我に返る諒希は剛の方を見て"──いや…"と誤魔化そうとしたが、剛には全てお見通しだ。誤魔化しなんて通用しない。

──今一緒におるんは僕やで。僕の事だけ考えててよ

──…それもそぉやね。ごめんね

──んーん、大丈夫やで。ね、はよ帰ろぉや。いっぱいお話したいねん

剛は可愛らしい幼い笑みを浮かべるとまた諒希の手を取り、門へと歩を進める。
それに文句1つ言わずついて行く諒希が可愛くて仕方なくて、余計に光一へと嫉妬の念が強くなっていった剛。こんなに好きなのに、と。