ヴィランになっても (ページ5)

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その日は学校に戻りたくなくて家に帰った。疲れたしシャワー浴びたかったし。

『ただいま』

家に入ると家事をしている音と私の声が響いた。使用人達は雑談をしながら家事に謹んでいるようだった。

リビングの隣にある部屋に入り、奥の方に置いてあるお仏壇へ向かった。線香をあげると独特の匂いが鼻をすくめる。手を合わせ目を閉じると様々な思い出が蘇ってきた。

目を開けると幸せそうな顔で写っている幼馴染。いつもショートカットの髪を綺麗に揃えていて、女子からも男子からも人気だった。

『…知ってる？明日で1年経つんだって』

スマホを開いて確認すれば9月12日と表示されている。

私は去年の9月13日に大切な幼馴染を亡くした。路地裏に連れ込まれたかと思えばヴィランに殴られ、蹴られ、全身アザだらけ。何で彼女だったのか。私でも良かったんじゃないか。目を瞑ればそんなことを思ってしまう。

私が個性を使っていたらまた別の未来が待っていたのかもしれない。

最後に見た幼馴染の姿はとても悲惨なものだった。刃物で刺されたような跡が無数にあって、私はただそれを眺めることしか出来なかった。

「この少女みたいな思いをさせないために、君に協力して欲しいことがある」

『……』

「君もヒーローにならないか」

涙すら流れなかった私は薄情者なのだろうか。
既に冷たくなった幼馴染が運ばれるのを見ながら首を縦に振った。

『…なる。なって皆を助ける』

その時の私の目は市民を助ける強い意志を持ち合わせたヒーローのような目と、狂気に満ち溢れたヴィランのような目をしていたらしい。

言い忘れていたが幼馴染のお仏壇が風谷家にあるのは彼女には身寄りがいないからだ。

『父さん、母さん…』

その声は儚げに消えていった。

父さんと母さんはアメリカにいる。父さんはヒーロー、母さんは医者。2人とも自分がやりたいことを100％かそれ以上にやっていて、その姿勢にいつも憧れてた。

でもまだまだ子供の私に言わせれば私1人置いて遠くに行かないで欲しかった。もう慣れたことだけど。

「A様、帰っていたんですね」

『うん。ただいま』

「お帰りなさいませ。お風呂ご用意できてますよ」

『ありがとう』

前に敬語も様付けもやめてと言ったけどやめてくれない。私はまだ子供なのになんで大人から敬語使われなきゃいけないの。

静かに目を瞑り、そっと呟いた。

『明日はきっといい日になるよ』

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