10話 ページ11
「前、反社同士での会合があったんだけどそん時だな。どっかの組の首領がお前の事を話してたんだよ」
殺し屋にとって、そのように名が知れ渡るのは喜ばしい事ではない。
「へぇ…優しい殺し屋だって。良かったね♡」
苦笑いを浮かべる。意外と危機感のない会話が続いていて正直面食らった。
「そうだ。最後に名前聞いときたいな」
「…優しい殺し屋です」
そうじゃねぇよと言うと、本名を教えろと要求してきた。
「…もう会うことなんて無いのに、？」
「そんな事、まだ分からねぇよ？」
意味深にそう言われた。謎に信憑性がある物だからつい、教えてしまった。
「A」
「…Aか。他の奴らが言ってた憶測の名前と全然違ったな」
九井がそう言う。本名を教えたのはボス以外は初めてだった。アホか、私は。流石にうっかりしすぎた。
「あ、言いふらさないで下さいね」
「どうだろうね」
妖艶に微笑む蘭は私の反応を楽しんでいるだけで、きっと言いふらさない気がする。
九井はと言うと、もう興味なさげに何かの資料に目を通していた。
ガチャ
とドアが開き、首領が入ってきた。
そして続いていて数人人が入ってきた足音が聞こえる。私は目を伏せていた。
「おい、顔上げろ。…黒岡さん、これが例の女のです。」
言われた通りに顔を上げると、私を買うであろう男と目があった。
「え……？」
その男は、ボスだった。見間違うはずがない。だが、信じられない。
「……」
ボスは指の合図で、「俺の事を知らないフリをしろ」と言った。
「私がいった通りの条件は揃っているが…。なんだ、この品の無さは。」
「……品がない、とは」
首領は微かに営業スマイルを崩して動揺している。
九井と蘭もだ。
「う〜ん。女性らしさが無いというか。しかも、肩外してあるだろ？その痛みに耐えられるようなタフな女は後々処分がめんどくさそうだ。…しかも、反抗してきたら寝首をかかれてもおかしくない。」
まさか、とボス以外は皆固唾をのむ。
「では、値引きして…」
「いや、必要ないよ。…写真も見ず私が乗り気になっていたのがよくなかったからね。お金は払おう。」
では、処分されるのだろうか。ボスは基本冷酷な人だから、こんなふうにすぐ捕まってしまった私に失望してしまったのかもしれない。というか、最近あまり調子が良くなかったから私と似た人を買おうと思ったのだろう。…どちらにせよ捨てられるのには変わらない。
「そこで、だ。梵天で使ってくれないか」
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作者名：ゆも | 作成日時：2022年3月26日 0時
