社畜ちゃん(sgi)

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朝起きればAちゃんとの通話画面。すぐさま寝落ちしたのだと悟る。謝ろうとしたけど、微かに聞こえる寝息に慌てて口を噤んだ。どう考えてもこの寝息はスマホの向こうにいるAちゃんのもので。というか通話終了したらよかったのに。通話時間は優に7時間を超えていて、そろそろ8時間を迎えようとしている。別に無料通話アプリだから通信料の心配はないし、切るのも何だか名残惜しくて少しだけ彼女の寝息に寄り添う。寝落ち通話なんていつぶりだろうか、高校生の時以来か。

スマホの向こうで布団が擦れる音、寝返りかと思ったが、それと同時に聞こえる彼女の声。

「ん゛〜〜〜〜」
「アッ、やば」

繋いだままの電話に気づかず伸びたものの、それに気づいたところだろうか。寝起きの声も可愛らしいです。

「...須貝さぁ〜ん」

聞こえるか聞こえないかの大きさで俺の名前を呼ぶ彼女に、少しだけ意地悪をしたくなって息を潜める。

「...寝息しないタイプ？生きてる？」
「...し、しゅんきさぁ〜ん、とか言ってみたり」
「ちょっと待って、それは良くないよ、そんな可愛いことするかね普通？」

思わず返事してしまう。これに関してはしょうがなくないか、無理じゃない？寝ていたはずの俺の声にエッとかヤバッとか意味のない感動詞ばかりを口にするAちゃんの顔を拝めないのが非常に残念。

「ごめん、出来心です」
「起きてるなら起きてるって言ってくださいよ」
「ごめんって。Aちゃんは朝から出勤でしょ」
「須貝さんは違うんですか」
「あら、須貝さんなの？まぁいいや、俺これから学校。昼からそっち行くよ」

意地悪を言えば彼女は電話越しでも伝わるくらいプリプリしてる。怒り方、尋常じゃなく可愛い。振り回されたい精神が燃え上がる。そんな邪な気持ちは無理やり抑えつけて、彼女の準備を邪魔しないよう今度こそ通話を切る。

通話が切れて、ロックをかければ暗転した画面に映る自分のだらしない顔。なんて顔をしてるの、この男は。顔を洗えば少しはスッキリしたけど、俺の名前をおずおずと呼ぶ彼女の声を思い出しては頬が緩む。ボイスレコーダーでも買っておくべきだった。

今日オフィスに行く前に怒らせちゃったお詫びに何かお菓子でも買っていこう。渋谷にできた新しいパティスリーにでも寄ろうかな。

『プリン1つで許してあげます』

こちらの考えが見透かされているかのような彼女からのメッセージに声を出して笑ってしまう。美味しいプリン献上させていただきます。

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