【ky】最終兵器と白銀少女【実/況/者】 (ページ5)

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3話　記憶ページ5

「…A」

『……?』

耳元で誰かが私の名前を囁いてる。

優しくて、全部を包み込んでくれるような柔らかい声。

この声は、たしか…

『かあ…さん……?』

ベッドから体を半分起こして私を見つめている母さんは、静かに微笑んだ。

「久しぶり。元気にしてた?」

『母さん…!!』

嬉しくて嬉しくて、母さんに思いきり抱きつく。

陽の香りがする体は、少しずつ忘れていた過去の記憶を一瞬で甦らせてくれた。

『母さん、母さんだ…会いたかった。どこ行ってたの…?』

「遠いところ。Aが知らないところよ」

遠い…ところ…?

『…もう…どこにも行っちゃやだ。私、母さんとずっと一瞬に…』

私がそう言うと、母さんは静かに首を横に振った。

「…それはダメ」

『え…?なんで…』

「Aには、もうたくさんAのことを大切に思ってくれている人達がいるでしょう」

『え…?』

母さんを抱きしめる手が震える。

その手をしっかりと握って、母さんはこう続けた。

「母さんはもういかなくちゃ。ほら、目を覚まして。大切な人がAを探してる」

『…!待って…母さん…!!』

突然目の前が白く霞んできて、母さんの姿が見えなくなっていく。

いやだ…まだ、話したいことがたくさん…

「母さんは、ずっとAを見守ってるから。ずっとAの傍にいるからね」

『母さん…』

母さん…死んじゃ、やだ…

視界は白で埋め尽くされて、私の意識は途切れた。

『ん…、…?』

あ、れ…私、なんで…?

『ここ…そっか、私、誘拐…』

そうだ、たしか扉が開いて、男の人が二人部屋に入ってきたはず…

そのあと私、また倒れて…?

…じゃああれは、夢だったんだ。

手のひらには、まだあの柔らかい感覚が残っているような気がした。

…とにかく、二人が入ってきたあとなにがあったのか、知らないといけない。

『っ…う……!』

立ち上がろうとしたら、突然目眩に襲われて咄嗟に壁に手を付いた。

『…?』

この感覚…嫌な感じがする。

恐る恐る目線を下にやると、予感通りのものが視界に入った。

『血…』

少し遠くの床に、ポタポタと溢れたように赤黒い染みがついていた。

『…ダメ』

今すぐなんとかしないと。

気絶する前になにがあったのか、はっきりとはわからないけど、だいたい予想はついた。

…血を取られたかもしれない。

この力は、もう使っちゃいけないんだ。

早く、取り返さなきゃ…

“大切な人がAを探してる”

『母さん…キヨ…』

ふらつく足を押さえながら、私は扉へ向かった。