【むずむずと】 ページ7
(竜胆視点)
頬に当たる冷たさに意識が浮上していく。
うちで捌いてるヤクの横流しの情報を得て、向かった取引現場の倉庫。そこには誰もいなかった。兄貴に連絡をしようとスマホを取り出したところで、後から頭を殴られた。朦朧とする意識の中で、スマホは手から滑り落ちる。後ろから俺を殴った──ついさっきまで部下だった男。スマホを足で蹴って、蹲る俺からチャカを奪った。
パン、と一発──。乾いた音がしてスマホが跳ねる。
「仕入れ元の情報をよこせ」
「知ら、ねぇよ……っ、検討違いだったな」
うちでヤクの取引、仕入れを仕切ってんのは、三途と九井だ。そして、こいつは二重で選んだ相手が悪い。
ぐっ、と足首を掴んで、寝技をかける。パンと乾いた音が響いて、また床に閃光が跳ねた。焦って撃った、照準のあっていない弾は当たらない。手首を捏ねるように固めて、撃てないように絞め上げる。響く骨の折れる音。形勢逆転──。
「もうすぐ仲間が来るから逃げらんねぇぞ」と喚いた男に時間がない事を悟って、尋問できないことに舌打ちがこぼれた。尋問と逃走時間。今の状態じゃ逃げる時間を取るしかない。
体勢を変えて、そのまま首を折った。ぐったりと力が抜けて、事切れた裏切りモンの男。体を引きずるように逃げ出した。
その後は、どこをどう逃げたか覚えていない。気づいたらどっかの路地裏に座り込んでいた。目の前には、知らねぇスーツの女。
救急車がどうのこうの聞こえて、朦朧とする意識の中それを止めた。その後、充電がなくなったとかほざいたのも覚えている。
またスマホへと手を伸ばした女の手を掴んでいた。体が暑いし、頭がズキズキと痛む。呼吸が整わない。何か食うかと聞いた女に、変に胸の辺りがざわついて、「いらねェ」と天井を仰いだ。
動けない体に苛立ちが募る。
目をそらしても、むずむずと胸の辺りが落ち着かない。俺はそれを落ち着けるために、息を深く吸って目を閉じた。
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作者名:はいず | 作成日時:2022年7月31日 22時