コウモリ傘【灰谷竜胆】 (ページ8)

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【雨降り帰路】ページ8

(A視点)

また傘をさして、袋を持って雨の中。顔を上げて、どんよりとした空を見上げた。家を空ける予定は取りやめて、今日一日お兄さんについていた。

とんだ週末になったなあ……。
家への道をただ歩く。寝ているお兄さんの熱が引きそうにないので、ドラッグストアへ買い出しに出た。

本来なら貴重な休日。昼頃に起きて、ダラダラとしたいことをして過ごしていただろう。
こんなことになるなんて思わなかった──。昨日の夜、路地裏へ行った事を現在進行形で後悔している。

24時間とまでは言わないから時間を戻したい。机の引出しに飛び込んで、19時間と少し前の自分に会いに行きたい。

同じく傘をさした人達とすれ違う。スマホで話しながらどこかへ行く人。友達と話しながら歩く学生の子達。お母さんと手を繋いで歩く小さい子。

みんなそれぞれに日常を過ごしているんだろう。
そっちの世界の人が家にいるということに、なんだか悪い事をしているわけじゃないのに悪い事をしている気持ちになった。

早く帰って、薬を飲んでもらおう。
そして、快復したら出て行ってもらわないと！

傘を握り直して、家路を急いだ。

「あー、うん。まだ見つかんねぇ。へーき♡絶ッ対ェ見つけっから」

立ち止まって足を止めた。そして、くるりと振り返る。いろんな傘が咲く中で、真っ黒なコモウリ傘が一つ。

何色にもならない色で、傘の群れの中に消えていった。