【熱】 ページ6
「あるわけないよねー」
寝返りのうてないソファでの睡眠でバキバキの体を起こすと、ベッドにはしっかりとお兄さんが寝ていた。
ため息をついて洗面所に向かう。
シャコシャコと歯ブラシを動かしながら考える。
家を空けている間にいなくなってないかな──とか、お兄さんをあんなにした人達は今頃、血眼になって彼を探しているのだろうか、とか。
バシャバシャと顔を洗いながら考える。
通報するか……いや、お兄さんにも仲間がいるはずだ。通報なんてしようものなら、お礼参りからの山の肥やしコースか海の藻屑コースだ。
命は惜しい。まだ死にたくない。
「やっぱり、今日は家を空けよう」
予約運転で回しておいた洗濯機から洗濯物を取り出してカゴへと放り込んでいく。高そうなオーシャングリーンのスーツ……と無駄に高いんだと勝手に判断したワイシャツは、洗えようが怖くて洗濯なんてできないのでハンガーにかけておいた。縮んだり、ほつれたりしようものなら、お兄さん直々に山か海コースへご招待されそうだ。
知らない間に出て行ってくれているといいな……。
せっせと部屋に洗濯物を干しながら、未だ寝ているお兄さんを見ると頬がほんのり紅潮していた。息も少し荒い気がする。
嘘だ──。
近づいて頬を触ると、少し汗ばんで熱を持っている。「ん……」と、眉根を寄せて短く声を漏らす姿に心臓が跳ねた。
すぐに違う違うと首を振る。そうじゃない!
傷からの熱なら、もうこの部屋でどうこうはできない。病院に連れて行こうにも車だってないし、第一、起こせそうにない。
「き、救急車!」
半ばパニックになりながら、すっかり元気になったスマホへと手を伸ばした。
ぐい──。
「…………え?」
そちらを見ると、しっかりと手首を掴む熱い手と苦しいそうな顔のお兄さん。
「電話……すんな……ッ」
「でも!」
「冷えた……だけだから」
「っ……わかり、ました」
ぎゅ、と痛いほどの力が困る手首は、首を立てに降るまで離してもらえそうにない。痛いのから逃げたくて、スマホを置いた。
「手、離してください」
「悪ィ……」
「なにか食べられそうですか?」
「……いらねェ」
天井を見上げてそう言った彼は、「お前の世話になんかなっかよ」と言っているようだった。
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作者名:はいず | 作成日時:2022年7月31日 22時