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【とりあえず】 ページ5

バタバタと通路を走る。手には二本の傘とディスカウントストアの袋。


ドアを開けると、お兄さんは壁に背を預けていた。すうすうと寝息をたてている。
家を出るときにさした傘と、路地裏に置きっぱなしにしたびしょ濡れのビニール傘。それをドアの取手に引っ掛けて、袋から真新しいバスタオルを取り出してバリバリと包装のビニールを外した。


体が冷たい。急いでフェイスタオルを濡らして、ラップに包んでレンジに突っ込んだ。チン、となるまでに袋から適当に買ってきたスウェットのタグを切っていく。


蒸したタオルで体をもう一度拭いて、スウェットの上着を着せた。……サイズが大きかったみたいだ。だぶっとしたスウェットの襟から、入れ墨が覗いていた。


そして、スウェットの下。下着を履き替えさせる勇気はないので、そのまま履かせる。


切れている頭の傷は深くなさそうなので、消毒をしてガーゼと包帯で応急処置をする。


「できた!」


ふぅーと息を吐いて手の甲を額にあてた。
連れてきた時のように抱えてベッドに連れて行く。チラリと見えた時計は、すでに日付が変わってしまった事を知らせていた。


我ながらすごい行動力だと思う。
また息を吐いて、眠る彼の顔を覗き込んだ。とてもそちらの世界の人だとは思えない、穏やかな寝顔で寝息をたてている。


こうやって見ると一見そうは見えないけれど、彼はたぶんそっちの人だろう。
その世界の人に関わってしまった不安が胸に渦巻く。しかも、どうもそちらの世界では揉め事の最中みたいだ。いや、揉め事は人様に迷惑をかけないならどうぞ勝手にやってください状態なんだけど……。


バレていないならいいけれど、助けた事で関わってしまった自分の状況は最悪なんだと思う。



「起きたら夢でしたーなんて……」

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作者名:はいず | 作成日時:2022年7月31日 22時

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