コウモリ傘【灰谷竜胆】 (ページ37)

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【外解禁！】ページ37

(A視点)

お兄さんから帰ってよしの許可が出て、私は竜胆さんの車で家に送ってもらっていた。エアコンの音だけが響く車内と不機嫌な竜胆さん。車内では、気まずいが極まっている。

「荷物まで運んでもらってすみません！」

「いーよ。お前の荷物、服くらいしかないし」

「すみません。ありがとうございます」

以降、お互いに何も喋らない空間で沈黙を破るのは、信号に差し掛かる度に隣から飛ぶ舌打ちだけだった。本物の凄みの効いている舌打ちが鳴る度、肩が跳ねる。

幸い、青信号ですいすい進んでくれているおかげでこの空間は長く続かず、車はすぐに二月ぶりの我が家に到着した。

「竜胆さん、本当にお世話になりました」

「……」

竜胆さんは、投げた気持ちを、べちっと叩き落とす勢いでこちらを見向きもせずに車を降りてしまった。ちゃんとお礼言いたいのに……。

「A」

竜胆さんがルーフに手をついてこちらを覗き込む。彼の背中がキラキラと踊る日差しを遮る。けれど、日差しはスポットライトのように、竜胆さんの存在を輪郭からくっきりと浮き上がらせた。

竜胆さんは、今ここにいる。そして、もうすぐまた関わり合いにならない生活──竜胆さんのいない生活──に戻る。この二月のうちに見た、いろんな竜胆さんが頭の中を流れていった。

竜胆さんとの関係は、子供の頃に憧れたひと夏の冒険のようなものだ。何かと出会って、友達になって。最後には別れてそれぞれの世界に戻る。読み切り短編のファンタジーや一時間半の映画と同じ。ちゃんと、決まった尺の中に完結がある。

「クソほどつまんねぇこと考えてんだろ」

どこか幼さを残したむすくれ顔がこちらを見ている。不機嫌を隠さない瞳のその奥に、少しの寂しさが滲んでいる。
やってくる終わりと竜胆さんとのお別れに、一瞬、キュッと胸の辺りが締め付けられた。