・ ページ2
「山本さん…昨日ぶり、ですね。」
この病室に入るのは今日で二十回目。そう、もう三週間がたとうとしていた。そして俺は、山本さんが事故に遭ってからこの部屋に来ない日は一度もなかった。
「そろそろ目覚ましてくれてもいいんですよ。」
こう告げるのもこれで何回目だろうか。
だがそんな言葉にも全く動じず、純白のベットにまるで意識が失くなっているような顔で眠っている恋人。そのさらりとした綺麗な髪を、優しく撫でた。
本当に、本当に何も無かったのだ。いつもと何も変わらない日。ただ、遅刻など滅多にしない山本さんが時間になってもオフィスに来なかった。連絡をしても通じず、どうしようかというときに電話が鳴った。山本さんが、交通事故に、遭ったと。原因は飲酒運転だっただろうか。それから俺は誰よりも早く、搬送された病院に向かった。幸いなことに命に別状は無かったのだが、意識が戻ってこない。医者が言うには事故後すぐ意識が回復する場合も、一年以上たつ場合もあるらしい。
「はー、、きつ。」
もう自分でも流石に気が滅入っていた。恋人に、山本さんに触れられなくなり、話すことができなくなるというのはこんなにも辛いことだったのか。よく失ってから大切さに気がつくというが、本当にその通りだと思った。ぼうっとする時間が多くなったし、物事に全く集中できなくなったのだ。それで心配されて福良さんに帰ったら?と言われたこともあった。それくらい、俺には生気が無くなっていたのだろう。まあ、今もあまり変わりはないが。
「ん…?」
あ、あれ。今、山本さんの声が…したような、?いや、そんなわけ無いだろう。とうとう参りすぎて幻聴まで聞こえるようになったのか?…そう思うが、僅かな期待をもってベットに目を移す。するとそこには…大きな瞳で俺のことを確かに捉えている、山本さんがいたのだ。
「病院、?ていうか…あなた、誰ですか…?」
69人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ハル | 作成日時:2021年2月10日 20時