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「お名前は?」
『月原Aです』
「では月原さん。こちらがお願いしたい仕事の表です」
吉野先生は手元に置いておいた紙を取り、さらさらと文字を書くとこちらに差し出す。
意気揚々と受け取ったその紙に目を通して、私は唖然とした。
『これは……』
「どうかしましたか?」
まるで流れるようなその筆跡を、何度も何度も目で追う。
上から下、右から左へ。
けれど何度読んでも、私の脳内ではその形を意味に変える事が出来なかった。
そう、私はすっかり忘れていたのだ。
現代の文字とこの時代の文字は、綴り方が全く違うということを……っ!
『えっと、な、なんて読むんでしょうか?』
「は?」
案の定、吉野先生と小松田さんが同時に首を傾げる。
……もう、正直に言うしかない!
私は思いっきり、頭をこれでもかというぐらいに下げた。
『すみません、私……この時代の文字、分からないんですっ!』
_沈黙。
「えーっ!?」
狭い事務室に、素っ頓狂な声が響く。
ズコーッと言わんばかりにこけた二人を前に、私は思わず苦笑いを浮かべた。
・
・
・
「それにしても、さっきはびっくりしちゃったよ〜」
『うう、面目無い……これから文字も勉強しないとだね』
ははは、と笑う小松田くんの横で、私は未だに残る恥ずかしさに顔を伏せる。
あの後結局、私は文字を使わない仕事……学園の掃除や草むしりを担当することになった。
小松田くんも吉野先生も、気にする必要はないと言ってくれたけど、"なんでもやります"なんて偉そうなことを言ってオチはこれ……
なんでこんな重要なことを忘れてたんだと、数時間前の私に言ってやりたい。
「でも分かるよ、僕だっていっつも失敗しちゃうもん!さっきだってお茶を溢しちゃったし」
『小松田くん……』
事務員である小松田秀作くんとは、同い年ということが発覚してからすっかり打ち解けた。
ちょっと抜けてるところはあるけれど、今もこうやって私を励ましてくれていて、不思議な魅力のあるとても優しい人だと思う。
_そうして暫くおしゃべりをしながら歩いていると、小松田くんが突然足を止めた。
どうしたのと尋ねれば、彼はその目を丸くする。
「僕、門番の仕事があるんだった!」
『えっ!?』
「だから行かないと、またね!」
慌しく走り去って行った彼の後ろ姿を見送って、私も私で与えられた仕事をこなす為に歩き出す。
いつの間にか少し軽くなった心に、私は笑みを溢した。
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海鈴(プロフ) - 麗羅さん» わぁあありがとうございます!性格についてはかなり考えたので、そう言って頂けて嬉しいです。頑張ります! (2022年1月28日 18時) (レス) id: 7471f44b15 (このIDを非表示/違反報告)
麗羅(プロフ) - コメント失礼します!すごく面白いです!夢主ちゃんが剣道が得意で明るい性格っていうのがすごく好きです!更新楽しみにしています! (2022年1月27日 22時) (レス) @page2 id: 90634de060 (このIDを非表示/違反報告)
海鈴(プロフ) - みこちさん» ありがとうございます! (2022年1月14日 22時) (レス) id: 7471f44b15 (このIDを非表示/違反報告)
みこち(プロフ) - 海鈴さん» もしも、この作品にゲストが出るとしたら、雑渡さんか兵庫水軍の皆さんが現れてくださったら…なんて考えてしまいます。応援します! (2022年1月13日 12時) (レス) id: e0b3c2b120 (このIDを非表示/違反報告)
みこち(プロフ) - 海鈴さん» 後も一つ、犬夜叉と鬼狩りという奴も在りますよ。出来ますれば、コメントを頂けたら嬉しいです。どんなコメントでも大歓迎です。 (2022年1月11日 21時) (レス) id: e0b3c2b120 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:海鈴 | 作成日時:2022年1月9日 22時