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『あ、あの……!さっきは、ありがとうございました』
「えっ」
感謝の言葉と共に頭を下げれば、彼は……伊作さんは、驚いたように目を見開く。
僅かながら困惑しているのか、その視線がちらちらと左右に動いた。
「さっきは、といいますと……」
『えっと、あの、食堂で』
先程_
あの口喧嘩は、伊作さんの仲介……というか説得により、私はなんとか事なきを得ることができた。
三郎さんは苛立ったままでどこかへ行ってしまったけれど……
あのまま言い合いが続いていたら、私は冷静さを失っていたかもしれない。
「ああ……その事でしたか」
伊作さんも見当がついたのか、こちらに向き直る。
少しの沈黙に私がふと顔を上げれば、今度は伊作さんが頭を下げていた。
「こちらこそ、申し訳ありません。どうか後輩の粗相をお許し下さい」
『いえ、そんな!』
伊作さんは悪くない。
そこまで謝られる筋合いは無いし……
そう思うと同時に、当たり前かもしれないけれど重苦しい敬語に距離を感じて、少しだけ寂しい気持ちを覚える。
気を取り直して、私は言葉を続けた。
『どうか、頭を上げて下さい。これまでのお話は伺っていますから』
「い、いえ……あの」
……どうしたんだろう。
伊作さんは少し迷うような表情をしてから、戸惑いがちに目を伏せた。
私が首を傾げると、伊作さんは意を決したように顔を上げる。
「……僕も、貴女と同じ考えなんです」
『え……?』
同じ、考え……?
予想もしていなかった言葉に、思わず呆然としてしまう。
伊作さんは、小さく息をついた。
「こんなことを言えば罠だと思われるかも知れませんが……正直、僕は……今の学校の方針に納得がいってないんです」
『方針?』
私が聞き返すと、伊作さんは小さく頷く。
先程とは違って、その瞳は真っ直ぐに私を映していた。
「天女だとしても皆違う人間、それぞれの考えや思いがある。それなのに、天女という括りで人間を捉えるなんて……ましてや、命まで」
"命まで"という言葉が、微かに震えている。
その表情はとても苦しそうで、そうとう悩んでいるように見えた。
「けれど、皆は囚われている。疑う心以外にも、持つべきものがあるのに」
『なぜ、そう考えるように……?』
私が思わずそう尋ねると、伊作さんは胸のあたりをぐっと掴む。
そして、絞り出すように小さく呟いた。
「僕は知っているんです……優しかったあの人を」
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海鈴(プロフ) - 麗羅さん» わぁあありがとうございます!性格についてはかなり考えたので、そう言って頂けて嬉しいです。頑張ります! (2022年1月28日 18時) (レス) id: 7471f44b15 (このIDを非表示/違反報告)
麗羅(プロフ) - コメント失礼します!すごく面白いです!夢主ちゃんが剣道が得意で明るい性格っていうのがすごく好きです!更新楽しみにしています! (2022年1月27日 22時) (レス) @page2 id: 90634de060 (このIDを非表示/違反報告)
海鈴(プロフ) - みこちさん» ありがとうございます! (2022年1月14日 22時) (レス) id: 7471f44b15 (このIDを非表示/違反報告)
みこち(プロフ) - 海鈴さん» もしも、この作品にゲストが出るとしたら、雑渡さんか兵庫水軍の皆さんが現れてくださったら…なんて考えてしまいます。応援します! (2022年1月13日 12時) (レス) id: e0b3c2b120 (このIDを非表示/違反報告)
みこち(プロフ) - 海鈴さん» 後も一つ、犬夜叉と鬼狩りという奴も在りますよ。出来ますれば、コメントを頂けたら嬉しいです。どんなコメントでも大歓迎です。 (2022年1月11日 21時) (レス) id: e0b3c2b120 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:海鈴 | 作成日時:2022年1月9日 22時