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『傷って……あっ』
そういえば、と私は右頬のガーゼに目線を移す。
これは、初めてここへ来たときに三郎さんから苦無で攻撃を受けて出来たものだ。
いつの間にか手当てされていたし、気に留めていなかったけど……
伊作さんに言われて、ようやく思い出した。
『これがどうかしました?』
そう尋ねれば伊作さんは悩む様に眉を寄せて、それから指先で傷の部分を撫でた。
痛いというより擽ったくて、私はただ呆然と伊作さんを見つめ返す。
『あの……』
「もしかしたら、なんだけど。この傷、跡が残っちゃうかもしれないんだ」
『跡?』
_伊作さんの話はこうだった。
伊作さんは保健委員で、山から私を連れて帰った後、すぐに傷を診てくれたという。
私の必死の抵抗もあってかほとんど擦り傷で済んだものの、その頬の傷だけは深かった。
自然治癒のみでは治りきるか分からず……最悪の場合、傷跡が残ってしまうらしい。
「ごめんね、女の子なのに……」
責任を感じているのか、申し訳無さそうに俯く伊作さん。
私は、首を横に振った。
『手当てをしてくれたの、善法寺さんだったんですね。ありがとうございます』
……傷跡なんて、どうでもいい。
いやどうでも良くはないけれど、覚悟はしていたし、生活に支障が出るわけでもないのだから。
それよりも私は、手当てをしてくれた人にお礼が言いたかったのだ。
「Aちゃん……」
『……確かに、私は女です。でも、ここでは男として扱ってもらうつもりなのでこれくらいどうってことないですよ』
逆にかっこ良くないですか、そう言ってみせれば暗い顔をしていた伊作さんも笑ってくれた。
一安心すると共に、その人懐っこい笑顔はとても可愛らしく見えてつい見惚れてしまう。
それに近くで見ると、伊作さんは綺麗な顔立ちをしていて……
思わず息を呑んだその時、廊下に鐘の音が鳴り響いた。
『鐘!?』
「あれっ、もう予鈴!?」
近かった距離がぱっと離れて、私も我に返る。
……いやいや、何考えてたんだ私!
心中でそんなツッコミを入れながら、ふうと息をついた。
「じゃあ、僕はこれで……そうだ、頬の綿を変えるから、後で保健室においで!」
慌しく去っていく後ろ姿。
私は大きく息を吸って、もう一度お礼を伝える。
『善法寺さん、ありがとうございました!』
「伊作でいいよ、Aちゃん!」
右頬に、そっと手をかざす。
心のどこかが、高鳴った気がした。
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海鈴(プロフ) - 麗羅さん» わぁあありがとうございます!性格についてはかなり考えたので、そう言って頂けて嬉しいです。頑張ります! (2022年1月28日 18時) (レス) id: 7471f44b15 (このIDを非表示/違反報告)
麗羅(プロフ) - コメント失礼します!すごく面白いです!夢主ちゃんが剣道が得意で明るい性格っていうのがすごく好きです!更新楽しみにしています! (2022年1月27日 22時) (レス) @page2 id: 90634de060 (このIDを非表示/違反報告)
海鈴(プロフ) - みこちさん» ありがとうございます! (2022年1月14日 22時) (レス) id: 7471f44b15 (このIDを非表示/違反報告)
みこち(プロフ) - 海鈴さん» もしも、この作品にゲストが出るとしたら、雑渡さんか兵庫水軍の皆さんが現れてくださったら…なんて考えてしまいます。応援します! (2022年1月13日 12時) (レス) id: e0b3c2b120 (このIDを非表示/違反報告)
みこち(プロフ) - 海鈴さん» 後も一つ、犬夜叉と鬼狩りという奴も在りますよ。出来ますれば、コメントを頂けたら嬉しいです。どんなコメントでも大歓迎です。 (2022年1月11日 21時) (レス) id: e0b3c2b120 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:海鈴 | 作成日時:2022年1月9日 22時