九十六 ページ9
そっと手を握られた。
いつもなら振りほどいているその手を、今日はどうも振りほどく気になれない。
一期「こんな傷だらけになるほど手を握ったのですか」
遥「…」
一期「他人のために心を痛めれる、優しい貴方の思っていることが知りたいのです」
遥「…」
手を優しく撫でる一期に、すっかり心を許している自分がいた。
遥「…胸糞悪いし、腹立った。理不尽だと、思った」
一期「理不尽…」
遥「翼は、あんなに愛されていたのに、1人の人間に愛される道を閉ざされて、孤独に生きて…幸せになれたと思ったら、呆気なく殺された」
一期「…」
遥「…なんで、翼なんだろう。アタシが、代わってあげられれば良かった。そしたら、みんなだって、一期だって、かれんさんだって和泉守兼定だって悲しまずに」
一期「それは違います」
一期はピシャリと言い放った。
一期「私は、貴方に会えて良かったと思っております」
遥「…」
一期「確かに翼殿が死んだのは辛く悲しいことです。ですが、貴方と会えたことは、とても嬉しいことです」
遥「…翼は、死んでよかったってこと…？」
一期「違います。そうは思っていません。が、私は今の刃生に悔いはありません。貴方に会えたこと、誇りに思います。ですから、間違っても代われれば良かった、なんて言わないでください」
「貴方がいなくなれば、悲しむ者も必ずいる」
一期のその言葉に、ハッとなる。
何、アタシらしくないこと言ってんの。
怒りに任せて、周りのこと見えなくなって。
遥「…何偉そうに言ってんの。わかってるし」
一期「そうですか。なら良かったです。さ、部屋に戻りましょうか」
送ります、と後ろをついてくる一期。
遥「…あり、がと」
そう呟くと、一期は照れたように笑った。
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作者名：桜海 | 作成日時：2018年10月13日 8時
