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私の家は言わゆる大金持ちで、父親は本に出てくるような典型的な金持ちの嫌な男だった。



小さい頃はそんな父に褒めて欲しくて色んなことを努力してみたけど、それも無駄な事だとわかってからはただ頭を空っぽにして父に言われるがままの生活を送っていた。



大学も、別に好きで選んだわけじゃなかった。



ただ、父から提示された大学の中で1番興味がもてる学科があったからってだけ。



そんなんだからもちろん楽しくなかった。



でも、家にいるよりは明らかにマシで、勉強するだのなんだの適当なことを言って、講義のない日や空き時間は毎日図書館に閉館ギリギリまで篭った。



昔から、私の逃げる場所は本の世界だけだった。









その日はたまたま欲しい本がギリギリ手が届くか届かないかぐらいのところにあって。



近くにあった脚立はいつの間にか回収されていたし、周りに話しかける勇気もなかったから、自力で取ろうとしてた。



でもこれがなかなか取れなくて、バランスを崩して、立て直しての繰り返し。



そこまで気にしてた本じゃなかったから、また今度にしよう、と一息ついた時、横から声をかけられたのだ。



大学ではなるべく埋もれて生活しようと心がけていたから、人に話しかけられるとは思わなくて、すごく驚いた。








「あ、すみません、急に。良ければ取りましょうか?」








私の様子を見ていたらしい彼は、丸い三白眼の目を優しく細めながら話してくれた。



私はどうしたらいいかわからなくて放心状態だったけど、あの必死に背伸びしてるとこ見られたんだなと思うと恥ずかしくて、思わず目を逸らした。



せっかく話しかけてくれたのだから、お言葉に甘えて本取ってもらおうかな。

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作者名:桜海 | 作成日時:2020年5月28日 23時

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