【中村悠一】 中村の嫁はわがままがーる

印象は ページ11

「かわいいな」


横で台本を見ながら呟く杉田。
そういえばこのアニメに杉田いたっけなんて思いながら軽く返事をする。

「なんていうか、ふわふわっとしててさ。抱き心地が良さそう。」
「完璧やらしい目で見てるだろ」
「そんなことはないさ。たぶん。それにしてもほんとにかわいい」

惚れたのだろうか。
杉田が女性声優に対して可愛いを連呼することは珍しくはない。
だが、なぜだか出雲さんをかわいいという杉田になんとも言えない感情が生まれた。
答えが気になるようなもやもやした感じ。

アフレコが終わりみんな駄弁ったり帰る準備を始める。俺は後者の方で帰る準備を始める。
一瞬視界に入った杉田と話す出雲さん。
俺と同じくあまり人と関わるのが得意じゃない杉田が楽しそうに話している姿を見ていいなと感じたことは正直な気持ちだった。

そんな光景を見なかったふりをして荷物を持ってブースを出る。
玄関まで歩く途中自販機を通り過ぎる。
ふとコーンポタージュが飲みたくなり戻ろうと振り返ると目の前に出雲さん。

「あ、お疲れ様です！中村さん！」
「あ、ああ。」

どうしてお疲れと言葉をかけなかったんだ。いきなりで焦ったんだよ。
心の中の自問自答は今思えばアホくさかった。

出雲さんを気にせず自販機でポタージュを買う。
ガコンッという音は静かな廊下に響くとなぜか少し恥ずかしい。
缶を取り出そうとすると1本買ったはずのポタージュが２本ある。
前の人の取り忘れだろうか。

「すごい！ラッキーセブンですよ！」

後ろからきれいな声が聞こえた。
飾ったような鼻にかかるような声じゃなくて本当に透明な声。

後ろを向くとさっき挨拶をした出雲さん。
あれ、もしかして自販機でなんか買おうとしてた？俺無視して先に自販機使っちゃった？

「今日はいいことがありますね！！」

出雲さんのその言葉にポタージュが２つ出てきたことを思い出す。
自販機に目をやると３つ並んだ７の数字。
なるほど。スロットのおまけか。
先に使ってしまったお礼なのか挨拶を雑に返した罪悪感なのか１本多く出てきたコーンポタージュを気づけば出雲さんに差出していた。

「あー・・・その。よければ、どうぞ。外寒いし・・・喉でも温めてください」

声優のくせして自分のことになるとかっこいいセリフは突然には出てこない。
それでも優しさはあるはず。プラマイゼロになっただろうか。


「すみません。コーンは嫌いなんで」



《印象は悪かったね。うん》＿＿＿＿Twitterより

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