一期一会 (ページ44)

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陣さんから壱馬さんの話しをきいてから、

壱馬さんと会うことはなかった。

むしろチラッと見かけることもなく毎日が過ぎていく。

陸さんと北人さんは、あの後もそれぞれ

何度か顔を見せに来てはメンバーのことだったり

たわいもない話しをしに事務所へ来てくれている。

壱馬さんはどうしてますか？なんて聞きたいけど、

聞けない。

「じゃ！俺そろそろ戻らなきゃ、また来ますね。」

「今日も頑張ってくださいね！」

陸さんは親指を立てたグーサインをして、

私のデスクから離れて行った。

田上「最近よく来るね～、陸と北人くん。」

隣に田上さんがコーヒー片手に戻ってきた。

「気を使ってくれてるだけですよ。」

私は苦笑いしながら、パソコンのマウスに手を伸ばす。

その手の先に置いてある写真に目がいった。

その写真は私が最初で最後に同行したライブでの

バクステの写真。

真ん中に映る私は引きつった笑顔で、

壱馬さんはキリッとした笑みで私の隣に立っている。

私たちの両隣の陸さんと北人さんは、

あっ！と驚く表情で、思わずクスッと笑ってしまう。

田上「肝心の人は未だ来てないね。」

「え！？だっ…誰のことでしょう…。」

また顔から冷や汗。

田上「すっとぼけんじゃないわよ。

壱馬くんが来ないって顔に書いてある。」

ドキリと胸が鳴る。

田上さんにはなんでもお見通しだな…。

「事務に戻ってからお見かけすらしてないんです。

会ったら伝えたいことがあるのに…。」

田上「そんな待ってたって、いつまでたっても

会えるわけないじゃん！それならそうと、自分

が動かなきゃ。」

田上さんの言葉を聞いて、ハッとした。

そりゃそうだ、引き寄せの方法があるわけないのに

タイミングをいつまでも待ってても、会えるわけがない。

「そうですよね…田上さんありがとうございます！

私っ…」

上司「Aさん、ちょっと今いいかな？」

ニコニコと笑顔の上司が目の前に来た。

「あ…はい！」

私は席を立って、上司の後を追った。

田上「なんてタイミング…。あの流れ、ドラマ

だったら今すぐ駆け出すところだったのに。」