一期一会 (ページ23)

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陣「陸くん、北人はトイレから戻ってきた？

あ、戻ってきてるね。じゃこれにて解散で各自帰宅

しますかー。」

陸「待って、陣くん。Aさんがまだいないよ。」

北「ほんとだ。え、壱馬もいなくない？」

陣「あー、2人ならなんか寄るとこあるからって先に

行ったで。」

陸北「「え？！！」」

陣「え、俺なんかまずいことした？」

ーーー

「うわ～！もう咲いてますね！」

壱「満開じゃないけど充分綺麗っすね。」

お店を出てから壱馬さんが陣さんに、

寄るところがあるからと説明して足早に連れてきて

くれた所は、会社の近くの川沿いにある桜並木だった。

入社したての頃はまだ2月すぎで蕾だったのに。

どっぷりと暗い闇の中に、提灯の微妙な明るさに照

らされた夜桜は、昼間とはまた違い綺麗だった。

「正直…お説教でも食らうのかと思ってました。」

壱「どんだけビビってんすか。」

変装用のマスク越しでもわかる。

フッといつもの優しい笑みで壱馬さんは歩きながら

桜を見上げた。

その横顔にドキッとした自分がいて、慌てて話題を

ふる。

「今年はお花見できないかもな～って思ってたとこ

ろだったから、見れて良かったです。ありがとうご

ざいます。」

壱「俺もです。忙しいのはありがたいことなんです

けどね。」

それから、たわいもない話しをしながら川沿いを歩

き、終電が近いことに気づき、駅へ足を向ける。

「ここで大丈夫ですよ！

これ以上は人混みなので。桜、連れてきてくれてあ

りがとうございます。

なんだか…すごく元気が出ました！」

壱「いや…こっちもいきなり誘ったんで。」

「みなさんもあの後、帰り道で見れましたかね？陣

さんとかほろ酔いだから気づかな…」

壱「今度サシで飯、行きましょう。」

「もっ…もちろんです！ぜひぜひ、ご都合のいい時

に誘ってください！」

びっくりしたー。

話してるところに若干食い気味で、ご飯のお誘い。

壱馬さんとプライベートで、しかもサシでご飯なん

てハードル高すぎる。

でもすぐに思った。

きっとこれは社交辞令だって。

そう思ったら、なんだか少し寂しく思えて、

では、また明日です！と踵を返して駅へ向かった。

壱馬さんはビジネスパートナーであるべき存在。

そう心の中で繰り返すなか、

電車に乗っている私のイヤホンからは、Overが流れた。