それは紙一重 (ページ35)

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ー滋賀ー

嘉くんへの「好き」という気持ちが

加速する反面、ライバルがカナちゃんだという確信を

経て、自信を失くして勝手に失恋気分な日々。

だって勝ち目のないライバルがいる恋愛なんて、失恋

したも同然だよ…。

はぁ…、とため息をついてから、これから控えるリリ

ースイベントに向けて、賑やかな声のする楽屋に入ろ

うとしたら、後ろから呼び止められた。

カナ「Aさんっ！」

げっ！カナちゃん…！

よりによって、なぜこのタイミング…。

「ど、どうしたの？」

カナ「ちょっと…いいですか？」

小さくて線の細い彼女の後ろ姿についていけば、あま

り人気のない通路に来た。

これって…もしかして喧嘩売られたりするやつじゃな

いの？！と、内心ドキドキな私とは打って変わって、

突然止まって、くるりと振り返った彼女の顔は微笑ん

でいる。

カナ「この事務所って～恋愛禁止じゃないですよね

っ？」

「…へっ？」

喧嘩を売られるもんだと勝手に思ってた私は、あまり

にも予想外な展開に素っ頓狂な声を出してしまった。

「えっと…まぁ、そうだね…。」

カナ「そしたら私っ、このまま嘉将くん好きでいても

いいですよねっ？！」

若干食い気味で、心なしか目をキラキラさせているカ

ナちゃんは、完全に恋する乙女だ。

「え…、」

カナ「一応、恋愛禁止じゃないのかマネージャーであ

るAさんに確認しておかなきゃって思いまして！

でも良かったぁ～、恋愛禁止じゃなくて。」

胸を撫で下ろす仕草をしながら、嬉しそう。

嘉くんが、取られる。

私の脳内にこのワードが、ドーン！と映し出され、危

険信号点滅。

「でも…今あの子たちは大事な時期だから…、」

自分も嘉くんと…なんて考えてたくせに、カナちゃん

には大事な時期だからってのを、無理やり理由づけに

するせこい私。

カナ「だからこそ、彼女になって側で支えたいんです

っ。」

笑顔で言う彼女の目は、恋する乙女と強い意志が見え

隠れしていて、私は返す言葉が出ない。

カナ「彼氏がいるAさんなら分かりますよねっ？

大好きな彼氏を支えたいって気持ち。」

申し訳ないけれど過去のパートナーに対して、「彼を

変えたい」という変な使命感だけで、支えたいとは思

ったことがない。

もちろん、支えたいとも言われたことはない。