【完結】書店員と恋１ (ページ40)

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「今日はありがとう、来てくれて」
「ううんこちらこそだよ。本当に楽しかった」
「そう言ってくれたら俺も嬉しい」

気が付けばお店に入ってから、なかなかの時間が経っていた。

「……そろそろ帰る？」そう言った彼の言葉を皮切りに、払う払わないの押し問答が数分続いく。結局押し負けたのは私。

「絶対次は払うから」
「うん、次ね」

嬉しそうに微笑んだ彼に、……あれ、今もしかして、スマートに次の約束しちゃった？
頭の上にはてなマークが浮かんで、それを見て彼がまた笑った。

マスターに挨拶してお店を出て。「今度はAちゃんの好きなお店行こうよ」「いいよ！連れてくね」「楽しみにしてる」そんな会話をしながら二人で歩いて駅前通りまで。

…けれどまさか、そこでまた押し問答が始まるなんて。

「タクシー使って？」
「え、いやでも」
「心配だから」

顔を覗き込まれて、「ね？」と落ち着いた声。「本当は家まで送りたいけど……そこまではまだ、ね」なんて。

あの日「ゆっくりで」と言った言葉を絶対に反故にしない彼は、いつも絶妙な線引きをしてくれる。
大切に、まるで壊れ物を扱うかのような。

…こんなの、女の子ならみんな好きになる。

会ったこともない、顔も知らない、彼の周りにいる女性を思って…しばらく見なかった感情が、モヤ、と顔を覗かせた気がした。

「歩いて帰るの、好きなんだけど…」
「でも危ないから」
「……いつも歩いてるよ？」
「今日はお酒も入ってるでしょ」
「…」
「ね、譲って？」
「……わかりました」
「ん。いい子」

例え私がどんな言い訳をしても、きっと彼は折れてくれないんだろう。それを悟って首を縦に振れば、ふ、と目が細められて。
ポン、と柔らかく頭に触れた手のひらは、すぐに離れていった。

ス、と上げられた手に、タクシーが止まる。

「ごめん、ちょっと生々しいけど」
「え」

後ろの座席に乗りこんで「また今度」と伝えようとすれば、カバンのポケットに差し込まれた何か。

「ちゃんと住所言ってね」「それじゃあ、よろしくお願いします」立て続けに私と運転手さんに声をかけて彼は、車から離れた。

バタン、とドアが閉まる。