【完結】淡く柔い鎖 (ページ6)

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「A、お願いだから早く来てね！早く終わらせてね！」
「はいはい、わかった頑張るから」

各々掃除当番を終えて集まってきた教室で、3人のことを送り出す。「ゲーセンで時間潰すか」って田中くんが言ってたから、…奈緒のお金が無くなる前に終わらせていかないとなあ、なんて。
あの子、すぐムキになるから。

先生のところから預かってきた紙の束は、明日の授業で使うものだったらしい。

「ほんとごめんな、すっかり忘れててさ……とりあえず、明日授業ある2クラス分だけお願いしてもいいか？」

って。断る気はそもそもなかったけれど、眉を下げて頼むものだから、二つ返事で引き受けてしまった。柴田先生、たまに抜けてて可愛いんだ。

日直で、って言われてたけど。
もうひとりの子は運動部で、いつだか「先輩怖えんだよなあ〜」って嘆いてたのを聞いた。

「先輩怖いんでしょ？(笑) 私やっとくよ」

そう伝えれば、「マジ！？A神かよ…」って大げさに感謝されて、彼は部活に向かっていった。「今度ぜってーなんか奢る！」そう言って。

…多分。これがあの3人にバレたら、怒られるのは私なんだけど。

2クラス分で、だいたい80組くらい。
30分……40分くらいあれば終わるかな。

なんとなくの目安をつけて、よし、って気合を入れる。

パチン、パチン、って誰もいない教室に響くホチキスの音と、外から聞こえてくる運動部の声。吹奏楽部が演奏する音。

… "エモい" ってもしかすると、こういうことを言うのかな？なんて。
ひとり感傷に浸りながら、ホチキスを留めていく。

30組くらい終わってて、15分くらい。…ま、こんなもんでしょ。
いいペース、なんて自分を励ましながら、次の紙に手を伸ばしたとき。

ガタ、って、後ろの扉に何かがぶつかった音が聞こえた。

「…なんで一人なの」
「……え、松村くん？」

パッと振り返ると、そこに立ってたのは先に行ったはずの松村くんだった。
なんで、って口を開こうとしたけど…ちょっとだけその眉間にはシワが寄っていて。思わず尻込み。口を閉じる。

「…………あいつ、サボり？」
「え、…や、違うの！私が行っていいよ、って言ったから」
「なんで？」
「なん、……『遅れたら先輩が怖い』って言ってたの、聞いたことあるから、…かな？」
「……」

心なしか、松村くんの纏った空気が冷たい気がする。