【完結】淡く柔い鎖 (ページ30)

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「…ごめんね、変なことになっちゃって」
「んーん、俺は全然。むしろ愉快」
「……慎太郎くんってさ、すっごくいい人そうに見えて」
「見えて？」
「意外と、性格悪いよね」
「…それ、俺に言っていいの？(笑)」
「あーごめん、そうだった。恩人だった(笑)」

ふふ、と笑いながら言えば、「ドーナツ奢りね(笑)」って慎太郎くんも、口角を上げながら言った。

あの日の出来事は、少しずつだけど過去の出来事になっていた。…1ヶ月以上も経ってるんだから、さすがにそうなってくれないと心が保ちそうになかったから。よかった、と、思う。

私にとってあの日そばにいてくれた慎太郎くんは恩人で、それを笑い話みたいに話してくれる今、彼は支えのようになっていた。

……正直、初めのうちはひどかったんだ。

視界に入れないように、入らないように、って、松村くんに背中を向けながら過ごす毎日。
少し前までは一緒のクラスになれたことが嬉しかったのに、今ではそれが苦しいと思うなんて、随分と身勝手だなと思う。

…松村くんの、声が。

田中くんと話す。クラスメートと話す。…女の子と、話してる、声が。それが背中越しに聞こえて、そのたびに胸がぎゅうと潰されるような感覚になる。

「…Aさん、大丈夫？」
「…え？なにが？」
「死にそうな顔してる」

お昼の、当番のとき。修学旅行から帰ってきてから森本くんと顔を合わせるのはその時が初めてで、会って一言目が、それだった。

「松村くん」って、クラスの女の子が話しかける声を「…なあに？」って、柔らかく受け止める彼の声色と、そこから続く会話に怯えて。…逃げるように、教室から出てきた後だった。

「…死にそうな顔、してる？(笑)」
「……Aさん今日さ、放課後終わったら暇？」
「え……暇、だけど」
「クレープ食べに行かない？」

突然すり替えられた会話に戸惑う。
すう、と森本くんが息を吸う。

「Aさん、知ってるかなあ。駅前に美味しいクレープ屋があるんだけどね？俺どーしてもそこのチョコバナナクレープが食べたくなった訳よ。でも一人で行くのは、ちょっと勇気なくてさぁ…… Aさん、一緒に行ってくれると助かるんだけど」

「え、……え？」
「え？行ってくれるって？さすがAさん俺嬉しいよ、やっぱ持つべきものは友達だわ！」
「…」