【完結】淡く柔い鎖 (ページ16)

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私がここに入って1週間したくらいの頃から、松村くんは図書室によく顔を出すようになった。

1冊だけ手にとって、借りていく。
私が「人が集まっちゃうかも」って言ったのを気にしてくれているのか、あまり長居することはなかったけれど。

でも、3日に…や、2日に一回は顔を出すものだから、「彼、そんなに本読む人だったんだ？」って、森本くんが不思議そうにしてた。

…なんだろう。私がちゃんと仕事してるか、とか……見張り、みたいなことなのかな。

「返却期限は2週間後です」って事務的なやり取りが聞こえて、ハッとする。
よくない、ボーッとしてた。

「Aちゃん」
「…え、あ、なに？」
「16時半までだよね？一緒に帰ろ。教室で待ってる」
「え、…ちょっ、松村くん、」

そう、言うだけ言って、さっさとその場を去ってしまった。浮きかけた腰を、ゆっくり下ろす。

…ふう、と漏れるため息。

松村くんが私のこと、名前で呼ぶようになった。

それと。ふたりで帰ることが、増えた。

なんでだろう？って思う。…思って結局辿り着くのは、「一緒に帰れそうな人はいるの？」って聞いてくれた松村くんの声。

懐を許した人には、とことん優しいんだ。
そういうところが、──。

……でも。彼らと、…彼と一緒にいる時間を減らしたくて入ったここなのに、これじゃ元も子もない。
むしろ傍から見た親密度は、増してしまってる気がする。

「相変わらず、当たり強いなあ(笑)」
「…なんかごめんね、」
「いや、Aさんのせいじゃないよ(笑) …でもごめん、聞いていい？」
「なに？」
「……付き合ってるんじゃないんだよね？」
「違うよ…(笑)」

なのに。

…そのことを無性に喜んでしまう自分がいる。

……本当に、馬鹿だ。