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「一体、何にでしょうか」
ローベックの突然の申し出に、少女は落ち着き払った様子で尋ねる。少女の視線は未だに前を向いたままだ。
彼はチラリと少女を見遣り、手に持ったグラスを口に運ぶ。やけに緊張した面持ちで、少女へと身体を向けた。
「私は、勝手ながら貴女に親近感を感じているのです」
真剣な眼差しで見つめるローベックに、少女はそっと目を伏せて同じようにグラスを口に運んだ。
「私は、15の頃にはもう次期当主を望まれていました。親が急逝した為に18で家を継ぎ、伯爵の爵位を国王から授かりました」
「私は……周りからの期待や重圧をよく知っています。それこそ、今の貴女のように私も一人でしたから。だから、私に何か出来ることがあれば言ってください」
「エルリカ様の心の拠り所になれるのなら、私はどんな事でも致します」
真摯に訴えかける彼に、初めて少女は目を合わせた。垂れ目がちな瞳に映る少女は、一体何を考えているのか分からない。しかし、ほんの一瞬だけ、向き合っているローベックにだけ分かった。
今にも消えてしまいそうな、儚く可憐な少女の微笑みを。
ローベックは目を見開いて息を呑んだ。何を意図してそんな笑みを浮かべるのか。それを聞きたくて、けれど、彼の中の良心がそれを咎めるように痛みだした。
「ありがとうございます……本当に……」
長い睫毛が頬に影を落とす。12歳とは思えない色香に、ローベックはゴクリと生唾を呑んだ。
バッと勢いよく顔を上げ、微かに潤んだ緑青色の瞳が不安げに彼を見詰める。少女が何かを言おうとしたその瞬間───
「エルリカ様!!」
──ぐらりと、少女の体が傾いた。
「彼奴らしい報告だな。いやしかし、”順調”か……」
口に手を当て考え込む。その鋭い真朱色の瞳には一体何が見えているのだろう。幼少期の頃は、同じ景色を見ようと奮闘していたが、何時からだったか。トントンは理解しようとすることを諦めていた。
「ふむ……まあいいか。作戦プランは変更なしだ」
「了解」
「あぁ、それとトン氏」
「ん?」
「……いや、何でもない」
それを言ったきり、彼は椅子を回し後ろを向いた。
トントンは怪訝そうに顔を顰めるが、追求するでもなく、そのまま部屋を出た。
廊下を歩きながら、ぽつりと呟く。
「……やっぱ分からんなぁ」
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とうふ(プロフ) - 白猫さん» ありがとうございます!ノロマな更新ですが、これからも応援よろしくお願いします (2020年4月17日 19時) (レス) id: df35f93799 (このIDを非表示/違反報告)
白猫 - 面白くて一気に読んでしまいました!笑 とても面白く想像しやすかったので、楽しく読めました! 更新頑張ってください。応援してます! (2020年4月17日 7時) (レス) id: 324236a98a (このIDを非表示/違反報告)
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