検索窓
今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:745 hit

もう足音が響かない・くらげ ページ3

目の前で起こったことを、どこか他人事のように茉優は見つめていた。
なんだか頭がぼんやりとする。視界が霞むし、なんとなく夢を客観的に見ているようで、現実味がない。
残念ながら現実なんだけれども。

「……■■■」

掠れた声で、目の前の式を呼ぶ。サクリファイスに入ってから、ずっと、この1年近く共にいた式。
自信家で、よく笑う人で、それと同じくらいよく怒る人で……______

「なーにビビってんのさ……ねぇ、まぁゆ?」

腹部をクルウルに貫かれ、息も絶え絶えな様子で、それでも自信満々に微笑む姿は、どこか遠くて。
すくそこに、手が届く所にいるのに……。

「■■■、怪我、が……治療、はやく、帰らないと……」
「ばーか。大事な、マスターちゃん置いてどこ行くってんの。それに私強いの。このくらいなーんてことないわ……よ……」

嘘だ。
だって、そんなに苦しそうで……

「まぁでも?少し帰れないかもねぇ……全く、最強に可愛い私を、こーんなんにするんだからさ、クルウルって、心底、ムカつく……」

泣きそうな顔してるのに……。

「■■■……」
「ふっは!なーに?泣きそうな顔してんじゃない、わよ。私の、マスターでしょ?」
「………」
「ねぇ、茉優。あんたさ、あんな気色悪くてムカつく輩なんかに負けないでよ……?この私の命と引き換え、なんだから、さぁ」
「……うん、わかった」

手の甲で乱暴に目元を拭って、私は目の前の優しい人を置いて踵を返す。
そしてそのまま、振り返らずに走り出した。


ずっと前に約束したこと。
本当に危なくなったら、私一人で逃げる約束。あの人のことは、置いていく約束。
破ったら許さないと笑われたことが、遠い昔のように思えた。

安全地帯まで走りながら、背中に感じ取ったのは大切な人の最後とクルウルの死。
そこで、やっと足を止めて振り返る。

そこには、もう動かないクルウルと、その傍で潰れているあの人。急いで駆け寄っても、もう意味が無いことはどこかでわかっているのに、それでも足は勝手に動く。

満足そうな顔のあなたを、私はそっと抱き締めた。

"ごめんなさい"

それしか、もう言える言葉が見つからなかった。

続く お気に入り登録で更新チェックしよう!

最終更新日から一ヶ月以上経過しています
作品の状態報告にご協力下さい
更新停止している| 完結している



←始まり・くらげ



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (6 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
1人がお気に入り
設定タグ:派生作品 , 短編集 , 合作 , オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:くらげ | 作成日時:2023年1月17日 19時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。