もう足音が響かない・くらげ ページ3
目の前で起こったことを、どこか他人事のように茉優は見つめていた。
なんだか頭がぼんやりとする。視界が霞むし、なんとなく夢を客観的に見ているようで、現実味がない。
残念ながら現実なんだけれども。
「……■■■」
掠れた声で、目の前の式を呼ぶ。サクリファイスに入ってから、ずっと、この1年近く共にいた式。
自信家で、よく笑う人で、それと同じくらいよく怒る人で……______
「なーにビビってんのさ……ねぇ、まぁゆ?」
腹部をクルウルに貫かれ、息も絶え絶えな様子で、それでも自信満々に微笑む姿は、どこか遠くて。
すくそこに、手が届く所にいるのに……。
「■■■、怪我、が……治療、はやく、帰らないと……」
「ばーか。大事な、マスターちゃん置いてどこ行くってんの。それに私強いの。このくらいなーんてことないわ……よ……」
嘘だ。
だって、そんなに苦しそうで……
「まぁでも?少し帰れないかもねぇ……全く、最強に可愛い私を、こーんなんにするんだからさ、クルウルって、心底、ムカつく……」
泣きそうな顔してるのに……。
「■■■……」
「ふっは!なーに?泣きそうな顔してんじゃない、わよ。私の、マスターでしょ?」
「………」
「ねぇ、茉優。あんたさ、あんな気色悪くてムカつく輩なんかに負けないでよ……?この私の命と引き換え、なんだから、さぁ」
「……うん、わかった」
手の甲で乱暴に目元を拭って、私は目の前の優しい人を置いて踵を返す。
そしてそのまま、振り返らずに走り出した。
ずっと前に約束したこと。
本当に危なくなったら、私一人で逃げる約束。あの人のことは、置いていく約束。
破ったら許さないと笑われたことが、遠い昔のように思えた。
安全地帯まで走りながら、背中に感じ取ったのは大切な人の最後とクルウルの死。
そこで、やっと足を止めて振り返る。
そこには、もう動かないクルウルと、その傍で潰れているあの人。急いで駆け寄っても、もう意味が無いことはどこかでわかっているのに、それでも足は勝手に動く。
満足そうな顔のあなたを、私はそっと抱き締めた。
"ごめんなさい"
それしか、もう言える言葉が見つからなかった。
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作者名:くらげ | 作成日時:2023年1月17日 19時