一寸先に鷹の翼【銀魂】 (ページ9)

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路地裏の眼鏡たちページ9

「……撒きましたかね」

「ですねぇ。

いやぁ、ありがとうございます。鹿嶋さん」

「よもや真選組が出張るとは思いませんでした。しかも、あの沖田総悟とは」

「あれ、お知り合いですか？」

「まさか。新聞で拝見しただけですよ。有名人ですから」

「ああ、大見出し飾ってますもんねえ」

薄暗い路地裏に佇む、ふたりの眼鏡。もとい男たち。

稀代の作家、岡都々喜とその編集者、鹿嶋である。

岡都々喜、もとい清水は新作の発売日に書店に赴き、実際の読者の反応を見るのが習慣として根付いていた。というのも、それまで本を書いた経験など無かったもので、第三者から見た自分の物語が如何に人に影響を与えるのか見てみたかったのである。つまりは野次馬根性だ。

それは処女作の頃から変わらない。こういうとき、素顔を含め個人情報を非公表にしていたのが役に立つ。

が、それはあくまで大衆に限った話。真選組や攘夷志士関係者の手によれば情報が露呈するのも時間の問題だ。

このときばかりはヒヤリとした。まさか隊長格が出てくるとは思わなかったので。

「しっかりしてくださいよ。岡都々喜の名はすでに全国に広まってます。つい先日なんて、お上の老中の方から感想の文が届いたんですからね」

「それはそれは。売り上げが伸びそうだ」

「言ってる場合ですか」

けたけたとなんでもないように笑う清水に対し、顰め面を崩さない鹿嶋。実はこの男、清水の過去の遍歴を把握している。

最初に原稿に目を通したのは鹿嶋本人だ。荒削りながら読む人を引き込んで離さず、己の脳内を拡張する創造の世界に魅了された。そんな人物がまさか元攘夷志士とは思うまい。簡易会議室にて対面したあの時の驚愕を超えるものは無い。

かくいう鹿嶋自身も実家が農家であると同時に、攘夷軍への補給なんぞもやっていた。お上に知られれば一族晒し首になるが、当時そんな家はざらにあったので見つかることも咎められることなども無かった。

なんとなく、一方的に顔を知っていたというだけの関係である。

「で、打ち合わせでしたっけ」

「ええ。前作が全国図書文学賞にノミネートされたと」

「えっ？」

「おや、存じませんでしたか？」

「や、初めて知ったんですけど……」

全国図書文学賞。

この日ノ本において、あらゆる文学、書籍に対して与えられる名誉ある賞である。

言うなれば『日本のノーベル文学賞』といってもいい。

作家からすれば、喉から手が出るほど欲しい賞の一つでもある。