色男の忘れ物 ページ15
「おや、やんできたみたいだねェ」
ぽた、ぽとん、
ぴちゃっ、ぱたたん
雨音が幼くなり、隠れていたお天道様がようやく顔を見せ始めた。
少しずつ差し込む陽光が、まだ曇天の濁り雲と晴れた青を水溜まりに映し出す。
気が急いたのか、子どもたちがぱしゃんと水を蹴飛ばして遊びに行く声も聞こえた。
「じゃあ、僕はそろそろ。着物、ありがとうございます。
後日お返ししますので」
「いいんだよ。また来ておくれ」
ずぶ濡れた自分の長着を片手にぺこ、と小さく会釈してスナックを出た。
さてそろそろ開店の準備を、とお登勢が裏に引っ込むと、掃除を任せていたたまと鉢合わせた。
その手には、見慣れない巾着が握られている。
「たま。どうしたんだい、ソレ」
「先ほど、脱衣場の掃除をしていたところ発見しました。私のデータにはないものでしたので、処分をと」
「小銭デモ入ッテンナラ拾ッタモン勝チデスネ。落トシ物ノ2割ハ貰エルト言イマスシ」
「アタシのじゃないしねぇ……キャサリンのでもないね。
一体誰の、」
ここで、はたと気づく。
先ほどまで脱衣場を使っていた人間は、ここの従業員以外に一人いる。
もしや、服を脱いだときに落としたのだろうか。
「たま、そいつはお客さんの忘れもんだ。預かるよ」
「かしこまりました」
「モシカシテ、サッキノ優男デスカ? 男連レ込ンデナニヲシケコンデタンデスカ。オ登勢サンモ歳ノ割ニヤリマスネ」
「違うって言ってんだろ」
巾着を受け取ると、何やら硬い。布越しに細かい凹凸を指先が拾う。半月型のこれは、かつて若かりし頃にお登勢も旦那から貰ったことのある代物だ。
それを懐にしまい、たまに表の看板に火を入れるよう頼む。キャサリンにはビールケースを片すよう言いつけた。
おそらく、近いうちに来るだろう。懐にしまい込むくらいなのだ、 普段から常に持ち歩いているのは確かだ。
あれほどの男前に櫛を贈るとは。如何程の情人であるか気になったが、首を突っ込むのは野暮だ。ババアの野次馬と思われかねない。
それにしても、岡都々喜があんなに若いとは思わなかった。お登勢も店の客に勧められ読んだことはあるものの、古臭い語彙や文の組み立て方で随分と年嵩の人間を想像したものだ。
それがどうだ、まさか銀時とさほど年齢の変わらない男だとは思うまい。
人は見かけに寄らないとはこのことだ。紫煙を吐き出し、くつりと笑う。
「ぶぇっくし!!」
「アンタ、まだいたのかい」
「酷い!!」
雨はいい天気とは言わないが、降らなきゃ降らないでそこそこ寂しいもんだ。え、そんなことない?→←マダオはどこまで堕ちようと結局はマダオ
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スミカ - 物凄く面白いです。高杉との絡みが最高に好きです!決して行き過ぎたチートじゃないとこも好きです。応援してます (4月13日 17時) (レス) @page19 id: daf320e252 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:pillow | 作者ホームページ:
作成日時:2024年2月17日 21時