かぶき町の女は半分妖怪なのかもしれない ページ12
かぶき町の女性たちは皆話上手なのか、会話が途切れることがない。
むしろ、延々と続けていられる。話しながら蜂蜜しょうが湯を出してくれる手はベテランのそれだ。
「へぇ、作家さんかい。今のうちにサインでも貰っとこうかね」
「ああ、でしたら初版本があるんですけど……あれ、どこいったかな」
「なんだい、いつも持ち歩いてんのかい?」
「今日が新作の発売日なんです。ちょっと書店行って、どんなもんか見てみたくて」
「へぇ、大した自信だねぇ」
「いやいや、そんなんじゃないですよ。もし一冊も手に取られなかったら寂しいじゃないですか」
「そういうことにしとくよ」
カバーをかけていた書籍は幸いにも濡れることはなく、ぱららっと流し見ても滲んだところは特に見られなかった。
ペンを借り、裏表紙にさらっと走らせる。清水自身表舞台に立っていないためサイン会など読者との交流の場は設けられたことはないが、たまにキャンペーンなどで10名様限定、とかで求められることはあるのだ。サインといっても芸能人ではないので、普通に【岡 都々喜】と記すだけなのだが。
村塾きっての字下手野郎、と揶揄した幼馴染を思い出す。確かに、止めや跳ねなんか気にもせず、筆の持ち方さえも怪しかった。握り方を一から教えてくれたのは恩師と同門だ。
インクが乾いたのを見届け、ぱたんと閉じて手渡した。表紙の筆者名に瞠目したお登勢だが、「誰にも言わないよ」と約束してくれた。年長者の口の堅さほど信頼できるものはない。
「テレビじゃ名前はよく見てたんだがねぇ。まさかこんな色男だとは思わなかったよ」
「恐縮です」
「顔出さないってのは、ワケありかい」
「お上に知られたら、その場で胴と首が離れるくらいには」
「……そういうことかい」
会話が途切れても、落ちた沈黙は重くない。
ずず、と湯飲みを傾けて暖を取る。はふ、と小さく息を吐いたところで、がららと引き戸が開いた。
「タダイマ帰リマシタ」
「おや、おかえりキャサリン。親父はいたかい」
「布団ニ籠ッテ居留守使ッテマシタ」
「あの馬鹿はまた、しょうもないやり方してんねぇ。どれ、ちゃんと持ってきたんだろうね」
「嫌デスヨオ登勢サン、私ガソンナニ信頼デキナイ女ニ見エマスカ?」
「てめーにゃ前科があるってこと忘れてんじゃないよ」
音の主は猫耳の女性だった。萌えアイテムの一つを乗っけてはいるが、それすら相殺する濃い顔が印象的だ。
あえて、見なかったことにした。
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スミカ - 物凄く面白いです。高杉との絡みが最高に好きです!決して行き過ぎたチートじゃないとこも好きです。応援してます (4月13日 17時) (レス) @page19 id: daf320e252 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:pillow | 作者ホームページ:
作成日時:2024年2月17日 21時