拾ったのはかぶき町の女帝でした。 ページ11
「すみません、こんなに綺麗な着物を……
洗ってお返しします」
「いいんだよ、あたしの旦那のモンだからねぇ。そのまましまい込んで肥やしにするのも勿体ないんでね」
場所はかぶき町の一角。以前訪れた『スナックお登勢』にて。
まだ看板に火が灯されていない時間帯に、男はいた。
「あそこで濡れ鼠になってたのを放っておくほど、あたしゃ人間できちゃいないんだよ」
「おかげさまで、お医者の世話にならずに済みそうです。本当にありがとうございます」
「ま、ババアのお節介は有難く受け取っておきな。
待ってな、あったかいもんでも出してやるよ」
「あ、や。そんな、お気遣いなく……」
カウンターの奥へ引っ込むお登勢を呼び止めようとするも、さっさと消えていった背は聞こえているのかいないのか。諦めて、スツールに腰掛けた。
スナックにしてはまだ早い店内を改めて見渡してみる。
先日、銀時と訪れたときにはオヤジの喧騒で随分賑やかだった。人口密度がなくなるだけでこうも雰囲気が変わるのかと、頬杖をついた。
降り出した雨に打たれ、もういいかと走る足を緩めたとき。お登勢に傘を差し出され、スナックへ連れ込まれたのである。
手拭いで顔と頭を拭き、彼女の夫のものだという着物を着せてもらった。しまい込んでいた割には糊がきいているので、定期的に洗っているのだろう。
まだ薄暗い天井を仰ぎ、はふ、と息を吐いた。
「待たせたね」
「あ、ありがとうございます」
「ウチは洒落た店じゃないから、こんなもんしか出せないがね」
「全然、そんな。いただきます」
マグカップにはスプーンが差し込まれ、僅かに溶けきらない蜂蜜が泳いでいる。ほんのり色づいた白湯を一口、食む。
じんわりと咥内が温度を取り戻し、舌先にぴりりと鈍く辛味が走る。生姜の作用だろうか、腹の中が一気に熱を持った。
「美味しい……」
「そら何よりだ。
アンタ、前にあの銀時と来てただろう。友達かい?」
「まあ、そんなところです」
「あのバカには呆れるよ。ここの2階を貸してるんだがね、ちっとも家賃なんて払いやしない。神楽と新八の給料も未払いときたもんだ。
そのくせ、自分はパチンコだ競馬だと金をつぎ込んでは溶かして帰ってくる始末さ」
「はは、らしいや。それで、あちこちケガする割にはほとんどお金にならないような依頼ばっかりして」
「全く、ちったぁアンタみたいな男を見習って欲しいもんだ」
「いやぁ、僕も自営業みたいなもんですから」
かぶき町の女は半分妖怪なのかもしれない→←岡都々喜たる自分自身
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スミカ - 物凄く面白いです。高杉との絡みが最高に好きです!決して行き過ぎたチートじゃないとこも好きです。応援してます (4月13日 17時) (レス) @page19 id: daf320e252 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:pillow | 作者ホームページ:
作成日時:2024年2月17日 21時