全ての虫よ、ロマンあれ ページ1
ジーヮ、ジーヮ、
ジジジジジジジジジッ、ジジッ、
刹那の命を懸命に生きる、蝉たちの大合唱の季節である。
無論、情緒に気を配ることなどできやしない現代社会人にとっては煩わしいノイズでしかないが、環境が変わればそれは夏の象徴として受け入れられる。
「懐かしいなぁ、よくカブトムシ競わせたりしたっけ」
「オメーはクワガタばっか取ってきやがって、さんざっぱらやられてただろうがよ」
「みんなカブトムシばっかり贔屓するけどね、1番強いのクワガタだからね? 見てよあのツノ。勝てると思う?」
「ばっかオメー、カブトが何より強ぇだろうがよ。ヘラクレスオオカブトとか名前からして最強だろうが」
「名前強くたって君のカブトもほぼやられてたろ」
場所は清水宅。今日も今日とて素寒貧な万事屋の社長はいい加減に仕事探してこいと従業員に尻を蹴飛ばされ、あてもなくふらふらとかぶき町を彷徨いていた。
と、そこへ遭遇したのはここのところ登場回数が増えた清水である。執筆の息抜きに散歩に出たということで、ファミレスでパフェを奢らせようとしたがあえなくかわされた。
『パフェよりも氷菓が美味しいでしょ、今日みたいな日は』
そんな誘い文句につられたともいう。
エアコンがついていないにも関わらず、清水宅は意外にも涼しかった。全面窓を開けて風の通り道を作ればなんとなく室温が下がる、とは家主の言うことである。
生ぬるい風だが、ムッとする籠った空気が霧散するのは有難かった。
昔懐かしのかき氷機に氷をセットし、ひたすらハンドルを回し続けた。 無論、担当は銀時だ。
清水はどこからか【みぞれ】と印字された瓶を取り出し、封を切って待っていた。例のごとく編集者から頂戴したのかと思えば、去年買ってずっとそのままにしていたという。賞味期限は2年ほどなのでまだ大丈夫とのこと。そもそもあまり気にしてもいないが。
「つーかいちご味ねぇのかよ。メロンでもいいぜ」
「そんなにあったって置く場所ないよ。みぞれで我慢しな」
「かき氷っつったらいちごだろうがよ。なんたってこんな色変わんねぇのにしたかねぇ」
「仕方ないな……どれ、あれ持ってくるかな」
「おっ? あるにはあんじゃねぇか、勿体ぶんなよ」
と、ここで清水が持ってきたのはどう見てもウニ色にしか見えない瓶。 ラベルには【八戸産 漁師のいちご煮】とある。
「いやこっちじゃねーよ!!」
「持って帰んなよ。賞味期限先月だけど」
「切れてんのかよ!!」
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スミカ - 物凄く面白いです。高杉との絡みが最高に好きです!決して行き過ぎたチートじゃないとこも好きです。応援してます (4月13日 17時) (レス) @page19 id: daf320e252 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:pillow | 作者ホームページ:
作成日時:2024年2月17日 21時