作家だって学生とほぼ同じことやってんだよ ページ39
がりがり、さらさら。
ぺらり、しゃっしゃっ。
ガリッ
「……あっ?」
唐突だが、万年筆が寿命を迎えた。まだ使えると思っていたが、意外と終わるのは早かった。
抉れた紙面と、滑らせたペン先が削った机。書き直すのは面倒で、そのまま進めることにした。
新しく買ったペン先に切り替え、インクを浸す。馴染むまで暫し待つ。その間に、潰れたマスに貼り付けるための付箋を取り出した。
たっぷりとインクを浸し、縁で余分な液を落とす。そのままかりかりと進め、時折ネタ帳をひっくり返す。繊細な描写はもちろんだが、人物が何を感じたか、胸中を占めるものは真綿かぬるま湯か。自分の感性に従い、納得するまで万年筆は止めない。
じっとりと篭もる湿度がまとわりつき、原稿用紙に腕を置くだけでべたりと跡ができる。そのため、手拭いの類は必須だ。
がりがりと筆は進むが、ペン先の交換で紙面から離れていたせいか、徐々に筆が遅くなっていく。
ついには、あと一行を残して投げ出した。ぐだり、と天を仰ぎ額に浮いた汗を拭った。
書斎に冷風機の類はない。扇風機は風で原稿用紙が飛んでしまうし、クーラーはもとから設置されていない。辛うじて、外へ繋がる窓はあるが夏の季節にもなれば一週間の命を散らすセミの大合唱がいやでも聞こえてくる。積極的に開けたいとは思わない。
いっそのこと、クーラーを付けようかと思うが書斎はさほど広くないのだ。すぐに冷えるのはいいかもしれないが、電気代を鑑みるとやはり選択肢からは除外せざるを得ない。
書きかけの原稿に文鎮を置き、じっとりと汗ばむ胸元を拭う。しゅるりと帯を解き、着物を脱いで襦袢だけになった。
書斎に風を入れるため窓を開け、篭った熱を逃がす。ほう、と一息ついて、抜け殻を拾い部屋を出た。
ぺたぺたと廊下を歩き、桐箪笥が置かれた自室に入った。襦袢を床に落とし、着物も放る。頭から水を浴びたいが、そんなことをしている暇が惜しい。新しい襦袢を取り出し、脱ぎ捨てた着物に帯を巻いた。抜け殻は洗濯かごに放り込む。
書斎に戻り、どっかりと座り込む。鼻の根元が痒くなり、眼鏡を外してこりこり掻いた。途端に視界がぼやける。
また眼鏡を掛け、万年筆を手にした。そろそろ中盤に差し掛かる頃だ。エンジンがかかり、文字を書く速度が上がる。
がりがり、さらさら、しゃっしゃっ、ぺらり。
さらさら、しゃっ、ぺらっ、ぐしゃっ。
がっ、がががっ、しゃっしゃっ。
「……やば、間違えた」
人間のスイッチオフこそ至高の始まり→←男性の一人暮らしに関わらず、大体の一人暮らしはめんどくさいもんだ。
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うす - 更新ありがとうございます…!この作品が大好きです応援してます! (9月19日 22時) (レス) @page50 id: d6b5e366a4 (このIDを非表示/違反報告)
oyz031(プロフ) - とても面白く、興味深いお話で続きが気になります。応援しています (8月30日 0時) (レス) @page49 id: 7ddb3de917 (このIDを非表示/違反報告)
きのこ - いつまでも更新お待ちしております、! (5月21日 18時) (レス) id: c35eeb83bd (このIDを非表示/違反報告)
レイ(プロフ) - 最近めちゃくちゃ更新されてますね!すごく楽しみにしてるので嬉しいです!無理のない範囲でこれからもお願いします! (2023年4月22日 20時) (レス) id: 19052b8914 (このIDを非表示/違反報告)
モブ - ものすごくこの小説が大好きです!次の話に進むたびドキドキしてしまいます...!!! (2023年3月24日 2時) (レス) id: 24c7afdf4d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:pillow | 作者ホームページ:
作成日時:2021年3月1日 15時