一寸先に鷹の瞳【銀魂】

男性の一人暮らしに関わらず、大体の一人暮らしはめんどくさいもんだ。 ページ38

「………あっ、づぁ」


噎せるような暑苦しさで目が覚めた。

カンカン照りというより、湿気が溜まって息苦しく感じる。室内プールの空気だ。

ばさりと布団を跳ね除け、べったりと湿る首を拭った。やたら喉が乾いていた。


浴槽に湯を溜めているうちに、着替えの下着と着物を用意する。水を飲み、眼鏡は額に乗せて襦袢を脱いだ。

ざばんと、湯船の水面が揺れた。へりに頭を預け、天井を仰いで一息つく。

ゆっくり風呂に入れるのは、今のうちだろう。進まない筆を無理やりにでも動かさなければ、〆切に間に合わなくなる。といっても、まだ随分と先の話なのだが。

微睡むなか、沈みそうになる身体を起き上がらせて湯船から出た。身体と顔を洗う。

もう一回湯船に入り、十分に汗を流して風呂場を出た。滞在時間は10分にも満たなかっただろう。


時代はもうクーラーだというが、風情が残る小さな城には似合わない文明だと思った。幸い、数少ない扇風機派のために穴場という穴場には置いてあるらしい。

よっこらせ、と倉庫から小さな扇風機を取り出し、スイッチを入れた。ブゥーン……と心地よい羽音が耳に馴染む。


朝食は素麺にした。本当は湯掻くのも面倒だったが、夕飯を食べていないことを思い出しセレクトした。パンの一切れすらないとはいかがなものか。

ちゅるちゅると素麺を啜り、テレビで天気予報を眺める。どうやら、今日一日湿った天気らしい。曇りなのは不幸中の幸いといったところだろうか。

存外腹が減っていたことに気づき、もう一束茹でた。こういうときに限って、湯切りが欲しくなる。あとは使わないのに。

結野アナの独特な声が高まり、恒例のブラック星座占いが始まる。これが意外と当たるのだ。

画面が切り替わり、順位ごとに並べた星座が陳列している。清水の星座は上位だった。


『今日ラッキーなのは、テレビの前で煙草をふかしてすまし顔をしているしし座のアナタ!! 運命の人に会えちゃうかもしれません。思い切って外に出てみましょう!! ラッキーアイテムは、お腹に優しいものです!!』


今日は外出やめよう。

冷蔵庫の中身よりもブラック星座占いの方が重要なのだ。パンがなんだ。米もあるし、梅干しもある。卵もある。魚もある。

急に外に出なくたっていいじゃないか。


うん、今日は外出ないようにしよう。そうしよう。

番組を最後まで見終わった清水はテレビを消し、いそいそと食器を片付けて書斎に引き篭った。

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