一寸先に鷹の瞳【銀魂】

山崎退の嘆息 ページ35

とっぷりと更けた夜。

明かりが灯る真選組屯所前では、門を潜って振り返る眼鏡の男がいた。

その背を見送るのは、真選組監察の地味な顔をした隊士。


「ご協力、感謝します」

「いえ、大した話もできませんで」


それでは、と踵を返した男が宵闇に溶け込むまで、後頭部から目を話すことは無かった。

下駄の音が消えてもなお、彼はそこに佇み、やがて門戸を潜って戻った。

溜め息一つ。不機嫌な様子を隠そうともしない鬼を宥めるのは、専らこの地味な監察 山崎退の役目であった。


桂の拘留は成功した。それまでは良かったが、問題は指名手配犯を匿っていた人物だ。

清水Aとだけ聞くと、なんてことの無いただの男のように聞こえるだろう。

しかし、その男が【鷹】だと言えば話は変わる。

攘夷戦争において、敵陣の兵を寸分の狂いもなく仕留めたとされる弓矢の名手。意気揚々と乗り込む天人の脳髄を貫き、絶命の刹那すら与えなかった非情な男。

定めた標的を確実に討ち取っていた姿から、天人に恐れられ【天狩りの鷹】の二つ名がついた志士。

それが、あのほけほけとした優男だとは誰も思いやしないだろう。

よもや、その【鷹】が桂を匿っていたとは思わなかった。青天の霹靂、とでも言おうか。

以前、真選組が関わった幕臣の逮捕劇にも一枚噛んでいた。わざと攘夷グループに接触し、手引きした連中が動きやすいように手配したと。

さらに、その幕臣がかかっていた麻薬紛いの違法物を扱っていた官僚が芋づる式にかかった。まるで入れ食いだ。

それについても聞きたかったのだろう我らが副長は、のらりくらりとかわされてしまい満足な聴取ができずに終わってしまった。副長権限でどうにでもできようが、『桂小太郎の保護の事実』と建前を作ってしまったためそれ以上踏み込むことはできなかった。

今夜は荒れるだろうな、と山崎は嘆息する。


まさか、桂や高杉と同等に名を知られる男があんなにアッサリと聴取に応じるとは思わなかったのだ。それは、山崎だけでなく隊士のほとんどがそう思っただろう。

よほどの余裕があるのかと問われれば、また違う。

何を考えているか分からない、思想が読めない人物こそ実は恐ろしい。

高杉や桂のように、何かしら攘夷の意思があるならば行動が読みやすい。だが、万事屋を営む銀色の男や清水Aのような、一見して考えが読めない人物こそ動きが読めないのだ。

末恐ろしいな、とつくづく思う。

一人思い出す、夜の夢→←関係者って言うほど信頼性はあんまりない

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す