桂と汎用性果実 ページ31
原稿は進める気にならなかった。
布団に篭もり、毛布を重ねて氷枕を敷いた。冷却シートを額に貼り、すっかり病人だ。
桂は洗濯物を畳み(といっても下着しかないが)、エリザベスは掃除を静かに行っていた。追い炊き分の働きはしようという考えなのか、それは有難かった。
寝間着も浴衣から作務衣に変えられ、羽織りを三枚重ねた。寝返りを打とうとしても、布団の重みがまとわりついて身体が動かしにくい。
熱の怠さでやる気も起こらず、天井のシミを数えながらゆっくり瞼を下ろした。
「清水、美味そうな林檎が……おや?」
棚に押し込まれるように置いてあった果物を持ち出し、食べるかと聞こうとしたが家主は熟睡のようだった。
失敬して、皮を剥いてエリザベスと共におやつにした。瑞々しく果汁が溢れ、歯応えがいい。
小説家という仕事では、なかなか人との関わりは無さそうだと勝手なイメージを抱いていたが、編集担当や印刷所とのやり取りで少なからず繋がりはあるらしい。
また、メディアへの顔出しはしていないものの、インタビューや取材で礼と称して菓子折りや果物などを貰う機会は多い。それだけでも一週間分の蓄えはありそうだった。
ちなみに、桂が勝手に持ち出した林檎は桐箱に敷き詰められていたことを追記しておく。
「うむ、美味い」
『ジュースできそうですね』
「おぉ、それは思いつかなかった。でかしたぞ、エリザベス」
言うなり、まだ箱に残っていた林檎を取り出して皮を剥き始める。 種を取り、林檎を櫛形にしておろし金ですりおろす。端が削れていき、水分を含んだ林檎が器に溜まっていく。
作業を覗き込むエリザベスを一瞥し「よく祖母がこうして作ってくれたのだ」と話し始めた。
風邪をひいたときは固形物が喉を通らず、かといって流動食ばかりでも栄養は限度がある。
そこで、柿やら林檎やら梨やらを貰ってきては食べやすいようにすりおろし、おやつ代わりとして用意してくれたという。
すりおろしでも駄目な場合は、布に包んで絞った果汁が出された。さすがに液体なので飲めるうえ、残った絞りカスはジャムやらお茶やらに変わり一切の無駄がなかった。
おばあちゃんの知恵は侮れないのだ。
「よし、これでいいだろう。冷やしてもいいだろうが、常温の方が良さそうだ」
『絞りカスはどうするんですか?』
「そうだな……確か、発言妹子で…」
記憶の底にあるネットの知識を引き出し、ああでもないこうでもないと頭を抱える二人であった。
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うす - 更新ありがとうございます…!この作品が大好きです応援してます! (9月19日 22時) (レス) @page50 id: d6b5e366a4 (このIDを非表示/違反報告)
oyz031(プロフ) - とても面白く、興味深いお話で続きが気になります。応援しています (8月30日 0時) (レス) @page49 id: 7ddb3de917 (このIDを非表示/違反報告)
きのこ - いつまでも更新お待ちしております、! (5月21日 18時) (レス) id: c35eeb83bd (このIDを非表示/違反報告)
レイ(プロフ) - 最近めちゃくちゃ更新されてますね!すごく楽しみにしてるので嬉しいです!無理のない範囲でこれからもお願いします! (2023年4月22日 20時) (レス) id: 19052b8914 (このIDを非表示/違反報告)
モブ - ものすごくこの小説が大好きです!次の話に進むたびドキドキしてしまいます...!!! (2023年3月24日 2時) (レス) id: 24c7afdf4d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:pillow | 作者ホームページ:
作成日時:2021年3月1日 15時