歳とると風邪は治りにくい ページ28
丑三つ時。
足が寒い、と感じた。
ぶるりと布団の中で悪寒が走る。火鉢でも置こうかと思ったが、既にしまい込んでしまった。わざわざ出すのも面倒なので、簡易的に暖が取れる手段を選んだ。
靴下重ねて寝るか、と寝ぼけ眼で箪笥を漁るともこもこ素材が指先に触れる。それを引っ張り出し、もそもそと足を包む。
喉が乾燥して咳が出る。加湿器などという女子力が高いものはないし、蜂蜜飴を作るのも面倒臭い。
これでいいや、と布団を深く被った。
それが悪かったらしい。朝方になると背筋に走る悪寒が酷くなり、肩甲骨が軋むように痛い。
腰や肘も痛む。特に、脇下は激痛が走った。
これはマズい、と診察券と保険証を探した。かかりつけ医が営む診療所は個人経営で、土日も開いている有難い医院だ。
電話をかけると、なぜか留守番電話だ。診察券を見ると、第三土曜日は休みとある。奇しくも、今日がその日だった。
「嘘だろ……」
とりあえず、と体温計を出した。昔ながらの水銀のもので、脇に挟むタイプのものだ。
二分ほど経って取り出すと、38.6度の数値を示していた。道理で寒いわけだ。
発熱時と痛みの頓服薬を取り出し嚥下した。すぐに症状が良くなる訳では無いが、気休め程度にはなるだろう。
毛布を重ね、布団に潜り込み蹲る。ガタガタと芯から震えが止まらない。
徐々に瞼が落ちていく。眼鏡がない視界で見えたのは、優しい恩師の幻影だった。
松下村塾での一時は、暖かくて優しい時間ばかり過ごしていた。
家に帰れば、自分の寝床は古びた倉庫だ。用があれば軒下に入れるが、あの家での己の価値は家政婦以下だった。まだ、下働きの方が幾分か扱いが上だったかもしれない。
ひどく雨が打ち付ける日。体温の低下を感じた清水は倉庫を飛び出し、松下村塾へと逃げ込んだ。まだ起きていた恩師は、手拭いで身体を拭き風呂を炊いてくれた。
ごめんなさい、と謝ると頭を撫でられた。頼りなさい、と落ち着いた声音で諭してくれた。
その日は銀時も村塾に泊まっていたらしい。お前もかよ、と顔を顰めたがぶっきらぼうに浴衣を投げつけた。まだ新品だった。
親がいる自分はぜいたくだ、と思っていた。庇護下にあり、屋根があるところで住める。ご飯を抜かれることはあるも、まだ死なない程度に食べることができるから。
その価値観は、村塾に来て一気に変わった。
桂、高杉、銀時。風変わりな同級は、これまでの思い込みを払拭したのだ。親が居なくとも、生きていけると。
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うす - 更新ありがとうございます…!この作品が大好きです応援してます! (9月19日 22時) (レス) @page50 id: d6b5e366a4 (このIDを非表示/違反報告)
oyz031(プロフ) - とても面白く、興味深いお話で続きが気になります。応援しています (8月30日 0時) (レス) @page49 id: 7ddb3de917 (このIDを非表示/違反報告)
きのこ - いつまでも更新お待ちしております、! (5月21日 18時) (レス) id: c35eeb83bd (このIDを非表示/違反報告)
レイ(プロフ) - 最近めちゃくちゃ更新されてますね!すごく楽しみにしてるので嬉しいです!無理のない範囲でこれからもお願いします! (2023年4月22日 20時) (レス) id: 19052b8914 (このIDを非表示/違反報告)
モブ - ものすごくこの小説が大好きです!次の話に進むたびドキドキしてしまいます...!!! (2023年3月24日 2時) (レス) id: 24c7afdf4d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:pillow | 作者ホームページ:
作成日時:2021年3月1日 15時