ひとりの夜 ページ18
その日の夜は、雲が月ごと空を覆っていた。
夕方に帰って行った万事屋一行を見送り、筆が乗り始めた原稿に向かい合って暫く。二刻ほど経った後、空腹を覚えて飯を食らった。ボソボソのチャーハンだった。
テレビをつけると、先日一斉検挙された攘夷党について報じられていた。 結局、あれらは鬼兵隊とは関係なく春雨の手駒として使われていたらしい。
ではなぜ鬼兵隊の名が上がったのかと問われれば、専門家の見解では宇宙海賊春雨と鬼兵隊の密接な関係があったためではないか、とのこと。
紅桜事件以降、鬼兵隊は春雨と手を組みあちらこちらでテロを起こしている。最近では、幕府の犬とやり合ったとか。
京に潜伏していた、武州に、いや陸奥国に、など様々な場所で目撃情報がなされているが、どれも今ひとつ信憑性に欠ける。
未だ湿布の下で燻る獣の跡は、ニュースの情報のどれよりも鮮明なゴシップだ。
テレビを消し、湯船に湯を溜める。天人の技術が浸透した今では便利なものだが、昔は湯釜に薪と色々用意するものが多かった。そして何より、人手がいる。
天人の支配による侍の衰退は、彼らにとっては都合のいい運びだっただろう。廃刀令を施行し、侍の魂を取り上げた。
だが、どの時代にも抗う者はいるのだ。権力者はそれを総じて愚かだと蔑むが、国家などという大層なものを操作している気になったそれらの方が愚かだと清水は思う。
権力に振り回され、強大な力に傅き、考えることもせず白旗を振る。学がある者こそ正しいとばかりに振る舞うが、学があっても使う者が正しくなければなんの意味も成さない。無駄に時間を腐らせるだけだ。
今の江戸を、悪いものとは思わない。それに納得しない者も、享受して生きる者も、新たに生を受けた者もいるのだ。
「……あっづい!!」
いつの間にか、湯船から溢れていた湯が撥ねて手にかかる。
給湯器を止めて、寝間着の襦袢と帯を取るために風呂場から出た。
ついでに手を冷やすため、冷凍庫に手を突っ込んだ。
「くぁ……」
湯上りに歯を磨き、寝床を用意する。夜も深い時間に眠たげな眼も閉じかけていた。
冷えた香りが頬を掠める。外の戸を閉め、鍵をかけた。
静かな夜ほど、脳内はよく騒ぐものだ。今もあの男が来やしないかと、どこか畏れて
唸りを腹の奥底にしまい込んで、牙を突き立てた獣を飼う男。
来るわけもないというのに。自嘲した笑みが、宵闇に溶ける。
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うす - 更新ありがとうございます…!この作品が大好きです応援してます! (9月19日 22時) (レス) @page50 id: d6b5e366a4 (このIDを非表示/違反報告)
oyz031(プロフ) - とても面白く、興味深いお話で続きが気になります。応援しています (8月30日 0時) (レス) @page49 id: 7ddb3de917 (このIDを非表示/違反報告)
きのこ - いつまでも更新お待ちしております、! (5月21日 18時) (レス) id: c35eeb83bd (このIDを非表示/違反報告)
レイ(プロフ) - 最近めちゃくちゃ更新されてますね!すごく楽しみにしてるので嬉しいです!無理のない範囲でこれからもお願いします! (2023年4月22日 20時) (レス) id: 19052b8914 (このIDを非表示/違反報告)
モブ - ものすごくこの小説が大好きです!次の話に進むたびドキドキしてしまいます...!!! (2023年3月24日 2時) (レス) id: 24c7afdf4d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:pillow | 作者ホームページ:
作成日時:2021年3月1日 15時