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夜這う獣 ページ19

曇天で覆い隠された空は、影をも喰らう。

床で眠る最中、酸素が取り込めず徐々に意識が浮上した。


___真選組か?

否。彼らなら複数で行動するはずだ。例え個人で動こうとも寝首を掻くような真似をするとは思えない。


___では攘夷志士か?

それも否。清水Aの生存を知る者がどれほどの数いるか分からないが、誘拐目的なら攫った後で起こせばいい話だ。


口元と鼻を覆われ、ぼんやりと薄暗い天井が見えた。首を締められていないのはまだ助かった、と言うべきか。

そこで気づく。覆う手は何も隔てておらず、手のひらの温もりがそのまま伝わってくるのだ。

眠らせたいのであれば、薬品なり何なりを嗅がせてしまえばいい。それを布に仕込み、口元に当てるのが正常な流れだ。

だというのに、この覆い被さる人物は手で覆っている。静かに、と子どもをあやすかのような優しい手つきで。


夜目が慣れ、頭上の人間が薄らと見えた。いつぞやか見た、蝶が舞う着物に左目の包帯。

頭上の高杉がぐ、と獣に襲いかかる豹のように姿勢を低くすると、手が覆う清水の口元が圧迫された。

手を外し、僅かな外の街灯でふたり分の影が浮く。


「お目覚めか?」

「……ぉこしたの、きみだろ…」

「その間抜け面、見に来ただけでも甲斐があったってもんだ。すっかり一人で寝やがって」

「なぁに……ねむいんだけど…」

「酒だ」

「……ん?」

「飲むなら持参しろっつったのは、テメェだ」


霞がかった思考で、動きが鈍い脳が一つひとつ単語を拾う。

酒、持参、飲む。

ああ、飲みに来たのか。下戸の僕と。


「オラ、起きろ」

「んん……」

「猪口は」

「………そこの棚」

「ほぉ……江戸切子か。悪かねぇ」

「わざわざ、酒飲むためだけに来たの……?」

「一人で飲む酒も不味かねぇが、テメェとならまだマシだ」


つまり、何か。

ぼっちでは飲みたくないと、そういうことか。

タモさんの三倍友達少ないもんな、とは言わない。言ったらどうなるか、ぼやけた頭でも分かる。


腕を引かれ、すぱんと開け放った先には何時ぞやの一室。あの日、高杉が腰掛けていた窓が全開になっていた。

緩慢な動きでどすんと座り、高杉もその隣に坐す。飴色の酒瓶を傾け、富士の形をひっくり返した彩りの切子を満たす。

ぐい、と煽る喉仏は男の象徴だ。ちびちびと舐めるように唇を濡らす清水は、象徴を晒すことはしない。

月を覆っていた雲は、いつしか流れて薄化粧を施すまでになったらしい。

今だけは、穏やかに酒を→←ひとりの夜



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うす - 更新ありがとうございます…!この作品が大好きです応援してます! (9月19日 22時) (レス) @page50 id: d6b5e366a4 (このIDを非表示/違反報告)
oyz031(プロフ) - とても面白く、興味深いお話で続きが気になります。応援しています (8月30日 0時) (レス) @page49 id: 7ddb3de917 (このIDを非表示/違反報告)
きのこ - いつまでも更新お待ちしております、! (5月21日 18時) (レス) id: c35eeb83bd (このIDを非表示/違反報告)
レイ(プロフ) - 最近めちゃくちゃ更新されてますね!すごく楽しみにしてるので嬉しいです!無理のない範囲でこれからもお願いします! (2023年4月22日 20時) (レス) id: 19052b8914 (このIDを非表示/違反報告)
モブ - ものすごくこの小説が大好きです!次の話に進むたびドキドキしてしまいます...!!! (2023年3月24日 2時) (レス) id: 24c7afdf4d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:pillow | 作者ホームページ:   
作成日時:2021年3月1日 15時

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