強面に囲まれたらチンピラだって警察だって怖い ページ9
事情聴取は翌日に行うとのことで、江戸に避難してきた大前姉弟らの行き先は真選組しかない。
事情を話せば新八の道場に行くこともできたかもしれないが、大所帯という点や警察の本部ということもあり、屯所への停留が決定したのだった。
屯所の風呂は大浴場だ。もちろん、女風呂なんてありはしない。欠片ながら残っていたレディファースト精神を発揮し、まずは女性陣に入浴するようにと勧めた。
お先に失礼します、と暖簾をくぐったAらの背を見送り、隊士らは所在無さげにそわそわする弟二人と共に残った。
長男の孝太郎は、背丈は高いにしても先程まで攘夷浪士に囲まれていたのだ。同じように体格が大きく、尚且つ強面の隊士らに囲まれて平常心で居られる訳が無い。
次男の龍之介も同様で、同世代の人間がいない空間に脅えていた。事件について詳細を話したいと言った手前、逃げ出すことはしたくないと力強く拳を握りしめていた。
と、そこへ差し出されたあんぱん。辿ると、地味な顔立ちをした隊士がそれを持っていた。
「腹減ってない?」
「あ……」
途端に、きゅるると空腹を訴えた腹の虫に恥ずかしくなったのか顏に朱が差す。あんぱんを受け取り、もそもそと食べ始めた。兄も同じだった。
思えば、ここしばらくまともなものを口にしていなかった。唯一安心できたのは、姉からの仕送りの金平糖くらいだろうか。それ以外の備蓄の食糧や野菜などは、ほとんど浪士に食べられてしまい成長期真っ只中にも関わらず栄養を摂取出来ていなかった。
「まず、メシ食べた方がいいね。何か嫌いなものとか、食べられないものとかある?」
「ない、です…」
「俺も……」
「そっか。じゃあ、こっちおいでよ。食堂案内するから」
「あ、でも……」
「ああ、あんぱんは食べながらでいいよ。それだけじゃあ足りないだろ?」
「ありがとうございます……えっと、」
「山崎って言うんだ」
「大前孝太郎です……」
「龍之介、です」
「へぇ、カッコイイ名前だね」
山崎は地味だ地味だと揶揄されているが、それを活かし監察という役割を担っているのだ。誰にも知られず、あたかもそこに居たように振る舞うことができる。それには、人の警戒度を下げるスキルや懐にするりと入り込む業が必要とされる。普段は舐められてばかりいるが、こうした子どもの相手をするには適任な人材だった。
「あの兄ちゃんたちは子どもに慣れてないだけだからね」
「子ども……」
「子ども扱いされた……」
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りんこ(プロフ) - いつも楽しく読ませて頂いています!もし決まってましたら、大前兄妹の年齢を教えていただけないでしょうか? (2021年2月24日 15時) (レス) id: 5b2ad52f60 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:pillow | 作者ホームページ:
作成日時:2021年2月23日 17時