幼き恩人殿 ページ45
あの頃の女児が、まさか『スナックお登勢』の料理長とは思うまい。今思い出せば、面影は残ってきたかもしれない。だが、戦争の途中で民家を宿代わりにすることなどしょっちゅうであったし、何より宿代と称して女と一夜を共にする回数の方が多かった。
当時7つほどだろうか。大福と竹筒の水をくれた女の子に連れられ、少々寂れた道場に無理矢理引っ張ってこられたのだ。
あの頃に応対してくれた女性は、思えばまだ存命のAの母親だったのだろう。優しい笑みを浮かべ、どこの馬の骨とも知れぬ自分を匿ってくれた。
少し厳しい目付きをした男性は、恐らく父親。まだ赤子の次男だかを抱きかかえていた。
よくよく考えれば、長姉の後ろに隠れていた幼子もいた。あれはもしや、長男と次女だろうか。
でっかくなりやがって、とほくそ笑んで団子を頬張った。
「あの時は驚いたぞ。まさか、お前が子と戯れているとは思わなんだ。俺の隊にいた奴らのほとんどが幻覚を疑っていたよ」
「宿代代わりだっつぅの。ガキ共の親父も昔は刀振り回してたんだってよ」
「ほう? 家族のために戦場を後にしたと」
「家庭も戦場みてーなモンだろうが。毎日朝飯作ってガキ起して顔洗ってって、そんだけで疲れらぁ」
「まるでその場に居たような口ぶりだな。いや、実際に身をもって知っているからこそ、分かるのか」
「ガキっつーのは無垢なもんでよ。知らねーもんがあるとすぐ手ぇ出しやがる。こーんなちっせぇガキが竹刀ブン回してんだぜ」
「将来は侍だな」
「何決めつけてんの? ちなみにそいつ女だったけど」
「侍に性別などありはせん。魂を掲げた瞬間、彼らは侍なのだ」
「何の師範? つーか侍が指名手配されてんじゃねーよ」
団子を食い尽くし、串を置いてごっそさんと立ち上がった。
支払いは桂持ちのため、極寒の懐を慮ることは無い。
「じゃーな。とっ捕まんないように気ぃつけろよ」
「ああ、お前も恩人殿に宜しく」
恩人殿。本人はそうは思っていないだろう。
あの日、腕を骨折して草むらに隠れるようにして蹲っていた銀時を見つけたのが彼女では無かったら。
気まぐれなのか、幼心からの親切心か。何にせよ、戦争真っ只中でほんの一瞬味わえた平穏が心地よかったのは確かだ。
ふらふらとかぶき町を練り歩き、すっかり見慣れたスナックの店先でその姿を見つけた。
簪で留めた長髪の横顔が、水撒きの手を止めてこちらを向いた。
「銀時さん、おかえりなさい」
「おう、たでーま」
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りんこ(プロフ) - いつも楽しく読ませて頂いています!もし決まってましたら、大前兄妹の年齢を教えていただけないでしょうか? (2021年2月24日 15時) (レス) id: 5b2ad52f60 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:pillow | 作者ホームページ:
作成日時:2021年2月23日 17時