水飴 ページ6
その人物は、よれよれの紺の袴にちりめんの着物を来て、地味な茶色の羽織に袖を通していた。
傍らには自転車があり、荷台にはA3サイズほどの額縁が載せられている。
首から提げたラッパを掴み、切れそうな息を吹き込んでは注目を集める。
紙芝居か。
今の時代、テレビが普及してからアナログの娯楽は衰退する一方だ。よくある童話よりも、最新のアニメの方が気になるお年頃ではないのか。
それに、マダオをはじめとするホームレス達が集まったのも気になる。それに何があるのかと見ていると、自転車を停めたその人間は何やらいそいそと準備を始めた。
取り出したのは、大量の割り箸と何やら琥珀色の半液状のものが入った瓶。蓋を開けて、割り箸を割って先端を瓶に突っ込む。とろりと糸をひくそれをくるくると巻き付けて、練り始めた。
それが何か分かった瞬間、銀時は即座にホームレス達の後ろに並んだ。
水飴だ。
紙芝居にはもってこいの代物。紙芝居全盛期では、こぞって自作の紙芝居と水飴で注目を促し、舐めながら迫力ある劇を鑑賞するというのが流行ったらしい。
幼い頃、銀時が住んでいた地域にも一時は来ていた。みんな水飴目当てだったが紙芝居も案外面白く、続きが見たいとせがむ子どもは多かった。
順番に水飴が渡され、自分にも渡ってきたときに気づいた。
その紙芝居師の手が荒れ、刀傷まみれなことに。
が、無粋はいけない。今はこの糖分にだけ集中していたい。厚顔無恥な銀時は、子どもとホームレスと一緒に水飴を舐めながら紙芝居を見た。なかなか面白かった。
「水飴目当てたぁ、長谷川さん。アンタ乞食に箔がついたな」
「要らねーよそんな箔!!
でもまぁ、こうして少しでも何か食えるのは有難いもんさ」
紙芝居師が去ってもなお残る水飴を舐めながら、銀時と長谷川はベンチに座っていた。
いつからか定かではないが、ああして水飴と紙芝居を引っさげては公園を巡っているらしい。
「こっちにも結構来ててさぁ。不定期なんだけど、来るときはほぼ毎日来るんだよね。来ないときって言ったら雨ん時とか…ああそうだ、寺子屋の運動会の時とかは来ないかな」
「運動会だ?」
「ほらぁ、よくあるじゃない。更地みたいなとこでリレーとか、大玉転がしとか。ああいうイベントやってる時には来ないんだよ」
「ほーん」
ぺちゃぺちゃと水飴を舐めながら、のんべんだらりと怠惰な時間を過ごす。
公園には、水飴目当てに遅れながら来た子どもが増えていた。
146人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
たまごどーふ(プロフ) - 銀魂の男主小説、最近数少なくなってるので読めるのがとても嬉しいです…更新頑張ってください! (2021年2月19日 23時) (レス) id: 45f2a26062 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:pillow | 作者ホームページ:
作成日時:2021年1月28日 21時