憂う未来、悔やむ過去 ページ43
「でもまぁ、先生のご飯には救われてますけどね。いい意味で、タイミングがよかったというか」
しばらく居させてくれと頼んだ手前、何もしない訳にはいかない。
極力編集部に入らず、かといって応接間を占拠する訳にもいかず給湯室で炊事に専念した清水の料理は好評だった。
卵雑炊やサンドイッチ、スープ類などはコーヒーが流し込まれた胃に優しく、温かさあまりに仕事中に眠ってしまう編集者がそこかしこに転がっていた。
一人暮らしが長く、凝り性の清水だからこそだろう。住み込みで働きませんかとスカウトされる場面も見られた。
作家業があるのでと断られたが、それが無ければここに食堂を開くのもいいかもしれないと思った。
「それは予想外。よかったです」
「今度はアポ取ってから来てくださいね。編集長が出張ってくるなんて、本来あまりないことですから」
「はぁい」
「それで、いつまでいらっしゃるんです?」
「あと一週間ほどは」
「5日」
「一週間」
「5日」
「6日!!」
「5日」
「……分かりましたよ」
「よろしくお願いしますね」
じゃあ自分は戻ります、と腰を上げる鹿嶋を見送り、ブラインドの向こうに思いを馳せる。
10年前はなかった、異郷の艦。今では自動で印刷ができるなんて、昔は考えられなかっただろう。
ファミコン、ゲームセンターなんて屋内の娯楽が増え、缶蹴りやベーゴマ、カブトムシの相撲なんかは滅多に見なくなった。
缶蹴りといえば、
存在感は薄かったが、戦場では影ながら皆を支える縁の下の力持ち的な役割だった。途中で戦線を離脱したが、あの頃は家族や友人を思って戦場を離れる者が多かった。
それでも、彼のことははっきりと覚えている。ゆで卵なら誰にも負けません、と言い放った。アレこれ別のアニメだっけ。
まぁいいや、と草履を脱いでソファに寝転がる。あと5日、それまでに家財道具を全て元の位置に戻さねばならない。
面倒だなと重労働の未来を思い浮かべつつ、いいやと今は考えないことにした。
眼鏡を外し、ぼやけた視界にべっ甲のフレームを翳す。
かつて、これをくれた幼馴染は今何をしているだろうか。
鬼兵隊復活や紅桜のことは知っていた。だが、攘夷の意を持たぬ自分が介入したところでどうなると目を背けた。
自分がいたことで、救えた人もいたかもしれない。
選択をする時は、いつも後悔が付き纏う。
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たまごどーふ(プロフ) - 銀魂の男主小説、最近数少なくなってるので読めるのがとても嬉しいです…更新頑張ってください! (2021年2月19日 23時) (レス) id: 45f2a26062 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:pillow | 作者ホームページ:
作成日時:2021年1月28日 21時